春やは遠き 夜半の徒路(かちじ)降り積む雪は深々と染む 行方も知らぬただ身すがらの私めを 夫(つま)は娶りて暮らしつ 咲き撓(おお)る冬椿(はな) 限りなき美山 流離(さすらい)の果てに野墓を見つけたり 世は飢渇(けかつ)して難に遭へり よき里人の嘆きなせり よろづの山賊(やまだら)は押し掛かる 惨(むご)らしき有様 こそろと憤(ふつく)む 亡き数読めど いかがは悲しき 帰らぬ人らは誰(たれ)もあへしらはず 荒れ惑ふ雪 掻き乱る心 「其の首(くし) 刎ねたし 我 白妙の化人なり」 闇路に落(あ)ゆる椿 蘇芳 赤し血を零(あえ)す 是(これ)や此の古物語 雪じもの足音(あおと)無く往(い)ぬ