檻の中に隠すように鉤をかけた重い扉 流れ着いた無辜の人に爪を立ててしまわぬように 止まる事無く響く音 扉の向こうの人の鼓動 積み重ねて辿り着いた その世界(むこう)に声をかけて 「会いに来たよ」 夜に映る声の人 差し出される手に震える心 それでも私と貴方の錆びない爪は 手にした世界を壊してしまう 止まるように流れ行く時間のなか 逢いたい人の全てを無くして 込み上げるその声で人のように泣き叫ぶこと  ただそれだけは逃れたかったけれど 音を無くした独り部屋 虚空に宿す自画像の 翼を引きちぎるために 貴方はまた闇を纏う 「生きているの?」 牙を見せて嗤う影 飲み込むのは渦潮の残響 それでも孤独が私を蝕むならば 貴方の爪さえ引き受けましょう 言葉は壁に張り付いたまま音を求めて蠢いていて 扉は固く閉ざされてまた私と貴方を二つにする 切り裂かれて崩れた部屋の中 逢いたい人の姿に怯えて 遺されて泣き出した女のように消えて行くこと  その行く末をずっと恐れているけど 太陽も月も無い闇の中 逢いたい人の姿を捜して 行き着いたその先で人間のように愛し合うこと ただそれだけをずっと望んでいたの