その地は度重なる天災、反乱、そして疫病で荒廃していた 明日すら生きられるか分からない そんな人々の唯一の希望は 国の中央に聳える高い城壁 外から窺い知れないその場所は 選ばれたものだけが住まうことを許された聖地なのだという 彼らは日々跪き、頭を垂れ、そして祈る 「どうか、御慈悲を——神様!」 In principio creavit Deus caelum et terram. Deum colit qui novit. Deus ex machina! 全て遮断するよう聳え立つ城壁 独自に統治された知られざる場所 人々は囁き合う あの内側にはきっと 理想の世界が広がっているのだと 御身に相応しい完全完璧な 依代を求め 禁忌に染める 欲するべきは類稀なる 優良 優秀 優等な遺伝子だ 神に選ばれし崇高なる者たちよ 希望を胸に さぁ方舟へと乗り込め 暗き明日を見て怯える日々に別れを ここが君にとっての楽園となる Diliges proximum tuum sicut te ipsum. Beneficium accipere libertatem est vendere! 笑顔が絶えず溢れる ここを統治するのは 齢十四程の白銀の王 等しく愛を与えて 優しく微笑む様は まるで天の使いだと皆噂する 方舟を守護する全知全能たる 神の降臨をただ待ち侘びよ 絶対的な真相見抜く 過ち 失考 誤謬など有り得ぬ 天の寵愛を受けし特異なる者よ 暫しの優越に浸ることを赦そう 君が過去を捨て敬愛を誓うのなら 限りない幸福を約束しよう ある朝、少女の元へと届いた便りは 神による選抜を受けた証となる 幸福安全保障機関アーク、即ち方舟の移住権 けれと、招かれたのは彼女ひとり 両親と幼い兄弟を この地に置き去りにしていくことに他ならなくて 子の幸せを願い喜び咽ぶ両親と 別れを惜しみ縋り泣く弟妹 その手を離し少女は独りゆく 固い誓いを胸に携えて 「これは永遠の別れじゃない」 「永遠になんてさせはしない」 「神様のすぐそばで私は願おう」 「大切な人達と幸福の先での再開へ」 神に選ばれし崇高なる者たちよ 玲瓏な瞳で輝く未来を見据えて 案じる事などもう何もないのだから 過去も明日も全て幸福に変えてゆけ Petite et accipietis, pulsate et aperietur vobis. Quo vadis,domine? Deus ex machina! 閉められていた扉の向こう 光溢れる楽園に相応しき建築物の数々 その先でまず白銀の少年は 穏やかな微笑みを持って少女たちを迎え入れた 「神の寵愛を受けた優良遺伝子たちよ」 「ようこそ幸福安全保障機関アークへ、待っていたよ」