[00:00.745]In principio erat Verbum, [00:05.029]et Verbum erat apud Deum, [00:09.966]et Deus erat Verbum. [00:22.348]慣れない土地に困惑する私に手を差し伸べてくれたのは [00:26.658]幼い頃からここで暮らしていたという、モモという女性 [00:32.431]親密に接してくれる彼女に最初こそ戸惑いもあったが [00:37.316]互いに打ち解けるのに、そう時間は掛からなかった [00:44.631]二人はどんな時も何をする時も一緒だった [00:49.646]その姿はまるで本当の姉妹のようで [00:54.296]澄み渡る青空 穏やかな日差し [01:03.439]飛び交う平和を祝う白い鳥 [01:12.895]道行く人は皆 幸福を謳う [01:21.986]戸惑う私の手 君は軽やかに引く [01:32.226]これまでの世界の全てが反転して [01:41.787]二人で巡る旅 視界が色を増した [01:51.034]楽園かあるいは天国に近いもの [02:00.464]濁りなき福音が今響き渡る [02:09.738]ねぇ お母さん 私は今幸せだよ [02:18.671]一人でも何とかやれてるよ [02:28.258]またいつの日か 皆で暮らせたらいいな [02:37.427]方舟で再開を夢見て [02:46.988]母と分けた片耳の思い出に祈る [02:56.836]家族と分かれる何は母親から譲り受けた耳飾り [03:02.113]片耳に輝くそれを指先であやしながら [03:06.084]クロナはふと空を見上げ思いを馳せた [03:19.484]「家族と離れ離れになって寂しい」 [03:23.925]「あ…ううん、ここにはモモがいるもの。大丈夫、寂しくないよ」 [03:31.553]「私は物心がつく前にここに来たから」 [03:35.053]「父親や母親、そして兄弟」 [03:38.449]「それがどういう存在なのか、正直良く分からない」 [03:44.013]「でもねクロナ、辛い時は我慢しなくていいの」 [03:48.716]「私はいつだってあなたの傍に居るわ」 [03:52.059]「絶対に、離れたりしない。約束よ」 [03:57.832]涙を堪えては 平気なフリして [04:06.949]強がりばかりが そう 上手くなった [04:16.222]両親が誇れる 娘になろうと [04:25.365]理想的な"姉"の虚像に縛られた [04:35.710]張りつめた心を溶かすよう抱きしめて [04:45.192]優しく君の手が 私の頭撫でる [04:54.231]"救われたんだよ"と "もう我慢しないで"と [05:03.896]その声に感情の全てが溢れた [05:12.751]ねぇ 本当は お姉ちゃんが欲しかったの [05:22.051]少しだけ甘えてみたかった [05:31.638]この方舟で新たな生を歩むなら [05:41.094]疑似的で不完全だけれど [05:50.446]家族のようずっと傍に居てもいいかな? [06:04.918]「あれ、どこか行くの」 [06:08.366]ある晴れた日の朝、独り家を後にするモモにクロナは問い掛ける [06:15.602]出掛ける時は必ず一緒だったのに [06:19.338]そう言いたげに少し不安に似た声が漏らした [06:25.659]「今日は週の一度の礼拝の日なの…」 [06:28.245]「あ、でもクロナはまだ洗礼を受けていないから」 [06:32.764]「洗礼…そうか、私はお留守番なんだ」 [06:39.295]「もう、そんな顔しないで」 [06:41.646]「大丈夫、来週からは一緒に行けるわ。」 [06:45.199]「帰ったら一緒にお昼にしましょう」 [06:50.528]もう何度目か 分からぬほど交わし合った [07:00.036]指絡む小さな約束を [07:09.284]ふと思い出し その温もりに満たされる [07:18.557]それこそが幸せなのでしょうね [07:27.857]少女はただ独り 彼女を帰還を待つ [07:47.527]二人で交わした幾つもの約束 [07:50.400]それはこれから先もずっと側にいるという証 [07:55.834]明日への不安も 未来への恐れも [08:00.144]ここには存在しないのだから [08:05.160]けれど、この日以来 [08:07.328]彼女がクロナの前に姿が現すことはなかった [08:12.213]「モモ…どこ」