俺には忘れられない初恋の女の子がいる。 出会ったのは雪が多い地方にある母親の実家へ遊びに行った時のことだった。 「雪だるま作ったらおばあちゃん喜んでくれるかな~ふんふん、楽しみ。あ、ああ、でも一人じゃ頭が乗っからないよ。ん、んんん、あ~ああ、やっぱり一人じゃ持ち上がらない。どうしよう?……えっ、ええ、女の子!」 「ねぇ~どこの子?どこから来たの?これ?あのね、雪だるまの頭が重くてね、持ち上がらないの……へへい?へい!手伝ってくれるの?!」 ---稲搗けば かかる我が手を今夜もか 殿の若子が 取りて嘆かむ--- あかぎれるこの手を、今夜も美しい人がとって、可哀相だと悲しむのだろう…… 「んん、できた!君が手伝ってくれたから雪だるま完成した~!ありがとうねぇ!まだ一緒に雪だるま作ろう。絶対だよ!約束の指きり。へへえ、お母さんが約束する時はこうするって教えてくれたんだ。あっ、待って、どこ行くの?ああ、行っちゃった。ええ、何これ?あっ、綺麗なブローチ、椿の花みたい。あの女の子のものかなぁ……」 (時計の音) 「あああ~んん、もう朝か。初恋の女の子が夢に出てくるなんて、久しぶりだな。向こうは覚えてるのかなぁ。いや、一回しか会ったことないし、もう覚えてないだろうな……」 ふと、机に置いてある椿の花のブローチが目に留った。 女の子が帰った後、椿の花のブローチが落ちていた。 どうやら忘れものらしい。 「初恋の人のものをずっと取っておくなんて、女々しいよなぁ。って、こんなこと考えてる場合じゃない!いま何時だ?ヤ~バイ!今日は大事な日だった。早く行かないと!」 俺は急いで布団から飛び出し制服に着替えると、カバンと椿の花のブローチを掴んで、学校へと急いだ。