偶然の重なり 肩を叩かれて、俺は顔を上げた。いつの間にか、彼女の隣で眠っていたらしい。 「ん?ああ~起きたのか?ごめん。寝てた。」 「何で謝るんだよ。倒れたことなんか俺は別に気にしてない。それより、もう熱は大丈夫なのか?」 「んん、おでこもさっきより熱くはない。顔色もよさそうだな。じゃ、具合がよくなったところでそろそろ帰るか。」 鞄を取ろうと俺が立ち上がった瞬間、制服の胸ポケットから、椿のプローチが落ちた。 「おっと、危ない!は~よかった。割れてなさそうだな。どうした?帰るんだろう。」 彼女は驚いた表情で俺の手の中にある椿のプローチを指差した。 「これ?ああ~小さい頃拾ったんだ。俺のお守りみたいなものだ。初恋の女の子が忘れていたみたいで...うんん、いや、なんでもない。」 「え?これ……自分のかもしれない?!」 ---恋は今は あらじとわれは 思へるを 何処の恋そ つかみかかれる--- もう何も心に留めない。そう思ってたのに。偶然の重なりは私に掴みかかる。 二人で保健室を出た後も、彼女は何かを思い出すように、ずっと黙り込んでいた。