[ti:] [ar:] [al:] [offset:0] [00:02.29]天の诱ひ [00:06.89]死んだ人なんかゐないんだ。 [00:09.91]どこかへ行けば、きつといいことはある。 [00:17.47]夏になつたら、 [00:19.46]それは花が咲いたらといふことだ、 [00:23.50]高原を林深く行かう。 [00:27.55]もう母もなく、おまへもなく。 [00:32.89]つつじや石榴の花びらを踏んで。 [00:37.43]ちようどついこの间、 [00:39.94]落叶を踏んだやうにして。 [00:45.47]林の奥には、 [00:47.40]そこで世界がなくなるところがあるものだ。 [00:51.41]そこまで歩かう。 [00:54.81]それは麓《ふもと》をめぐつて [00:56.51]山をこえた向うかも知れない。 [01:00.61]谁にも见えない。 [01:05.47]仆はいろいろな笑い声や泣き声を [01:08.65]もう一度思い出すだらう。 [01:12.48]それからほんとうに叱られたことのなかつたことを。 [01:19.93]仆はそのあと大きなまちがひをするだろう。 [01:24.87]今までのまちがひがそのためにすつかり消える。 [01:34.89]人は谁でもが [01:36.69]いつもよい大人になるとは限らないのだ。 [01:42.25]美しかつたすべてを花びらに埋めつくして、 [01:47.19]雾に溶けて。 [01:53.25]さようなら。