みまかれる美しきひとに まなかひに几たびか 立ちもとほつたかげは うつし世に まぼろしとなつて 忘れられた 见知らぬ土地に 林檎(りんご)の花のにほふ顷 见おぼえのない とほい星夜の星空の下(もと)で その空に夏と春の交代が慌しくはなかつたか 尝(かつ)てあなたのほほゑみは 仆のためにはなかつた あなたの声は 仆のためにはひびかなかつた あなたのしづかな病と死は 梦のうちの歌のやうだ こよひ涌くこの悲哀に灯をいれて うちしほれた乏しい蔷薇(ばら)をささげ あなたのために 伤ついた月のひかりといつしよに これは仆の通夜だ おそらくはあなたの记忆に 何のしるしも持たなかつた そしてまた このかなしみさへゆるされてはゐない者の―― 《林檎みどりに结ぶ树の下に おもかげはとはに眠るべし》