一本の若い杉と 一人の小さな男の子 彼らの生きてる世界で起こる とある一つのエピソード とてもとても小さなお前が その手で摑み僕に登り 生意気に僕の見るこの広い景色を 毎日見に來るようになった ずるいな僕のこの 枝じゃその手のように摑めないの より広い世界を見る 術を僕も欲しいよ 少年は語りかけてきた 「いつか大きな人になれたら」 「世界中を見渡したいんだ」 「そしたらどんなんか教えてやるよ」 植物たちは人とふれあい 意識が芽生え感情が育つの 君から僕は教わったよ 始めての友達 僕はただの杉の木だけどありがとう それから長い年月を 君と共に過ごしてきた お互いに心も成長してきた ああなんて幸せだろう 君は太い枝に座り ある日寂しそうにつぶやいた 明日遠くの町へ移り住むんだ 此処には來れなくなるよ どうして僕の根じゃ その足のように歩けないの 君と離れたくない ともに行きたいよ 友情の證としてと 君は古くさい腕時計を 僕の枝にくくりつけたの 大切な時計と教えてくれた また合う日までこれを預ける いつか必ず會いに來ると 約束しよう忘れないよ ありがとうさよなら あれから何年経ったのか 僕には分からないよ 生きているのか死んでるのかさえ 最早分からないよ 久しぶりに僕の元へ 人間たちが集ったよ 皆哀しげに僕の根元に 大きな黒い箱を埋めた それから毎日君の 夢を見ているんだ 暖かいのに苦しいのは何故 數日が過ぎ若い男が 僕の元へ一人訪れて 大切な約束の 時計を僕から取り外したの 見た事ある顏の男だ そうだこないだ見た男だ 返してよ泣きそうな僕を 見上げてかれは言う 「約束はもう果たしたからだから…」 やっと気づいた今までの夢 そして僕の元で眠る君よ 受け入れずにごめんなさい もう大丈夫だよ寂しくないよ さあともに行こうあの太陽目指して 世界中を共に見渡してやろう また會えて嬉しいから 一言おかえり 僕はただの杉の木だけど ありがとう これからもよろしくね