生暖かな風が ふと止む夜更けに 底に水が湧いたら 船は陸に着かぬ 昔 聞いた話 ほら おいでやおいでと底から逆巻く渦 波より突き出る白い腕 穴あき柄杓を渡せど絡まる渦 進めや進めと海底へ 高曇りの夜には 船人が急ぐ 乱れ飛ぶ火の玉を 見たら終いだと 昔 聞いた話 引きずり込む水藻は緩まず暗い海へ 波間に漂う黒い髪 穴あき柄杓を渡せど絡まる渦 進めや進めと海底へ 永き遠の眠りについたものを 波に船の音高く起こすは 北風は吹いた ああ 乾かぬ衣を纏いし我が腕へ 悶えよ狂えよただ人よ 穴あき柄杓を渡せど絡まる渦 進めや進めと海底へ おいでやおいでやと 底から声が聞こえる