[00:28.73]おばあちゃんは夕餉の片付けを終えた時 [00:35.56]弟は2階のゆりかごの中で [00:41.26]僕と親父は街頭テレビのカラテチョップが白熱した頃に [00:48.56]妹の誕生を知った [00:54.69]それから親父は占いの本と辞書と [01:01.50]首っぴきで実に一週間もかけて [01:07.77]娘のために つまりはきわめて [01:11.12]何事もないありふれた名前を見つけ出した [01:20.41]お七夜 宮参り 夫婦は自画自賛 [01:27.41]可愛いい娘だと はしゃぎ廻るけれど [01:33.62]僕にはひいき目に見ても しわくちゃの失敗作品 [01:40.34]やがて彼女を訪れる 不幸に胸を痛めた m~ [01:52.64]兄貴として m~ [01:59.76]妹の生まれた頃の我が家は [02:05.99]お世辞にも 豊かな状態でなかったが [02:12.08]暗闇の中で 何かをきっかけに [02:16.13]灯りが見えることがある [02:19.14]そんな出来事だったろう [02:25.84]親思う心に勝る親心とやら [02:31.85]そんな訳で妹は ほんのかけらも [02:37.44]みじめな思いをせずに育てられた [02:43.78]ただ顔が親父に似たことを除けば [02:51.36]七五三 新入学 夫婦は狂喜乱舞 [02:57.69]赤いランドセル 背負ってか 背負われてか [03:04.56]学校への坂道を足元ふらふら下りてゆく [03:11.25]一枚のスナップが 今も胸に残ってる m~ [03:24.45]兄貴として m~ [03:31.09]我が家の血筋か 妹も足だけは速くて [03:37.74]学級対抗のリレーの花形で [03:44.45]もっとも親父の応援のすごさに [03:48.26]相手が気おくれをして [03:51.48]随分助けられてはいたが [03:58.25]これも我が家の血筋か かなりの演技派で [04:04.74]学芸会でもちゃんと役をもらった [04:10.85]親父の喜びは 言うまでもない [04:14.90]たとえその役が一寸法師の赤鬼の役であったにしても [04:24.55]妹 才気煥発 夫婦は無我夢中 [04:31.71]反抗期を過ぎて お赤飯を炊いて [04:38.33]中学に入れば 多少女らしくなるかも知れぬと [04:45.65]家族の淡い期待 あっさり裏切られてがっかり m~ [04:59.07]兄貴として m~ [05:06.33]妹の初恋は高校二年の秋 [05:13.33]相手のバレー部のキャプテンはよくあるケース [05:19.88]結局言い出せる 筈もなく [05:23.40]枯葉の如く散った [05:26.81]これもまたよくあるパターン [05:33.84]彼氏のひとりもいないとは情けないと [05:40.50]親父はいつも笑い飛ばしては いたが [05:46.64]時折かかる電話を一番気にしていたのは [05:54.11]当の親父自身だったろう [06:00.79]危険な年頃と 夫婦は疑心暗鬼 [06:08.04]些細な妹の言葉に揺れていた [06:14.91]今は我が家の一番幸せなひとときも少し [06:22.00]このままいさせてと 祈っていたのでしょう m~ [06:35.75]親子として m~ [06:45.24] [07:46.02]或る日ひとりの若者が我が家に来て [07:52.85]"お嬢さんを僕に下さい"と言った [07:59.45]親父は言葉を失い 頬染めうつむいた [08:05.62]いつの間にきれいになった娘を見つめた [08:13.83]いくつもの思い出が親父の中をよぎり [08:20.90]だからついあんな大声を出させた [08:27.75]初めて見る親父の狼狽 妹の大粒の涙 [08:34.92]家中の時が止まった [08:41.64]とりなすお袋にとりつく島も与えず [08:48.85]声を震わせて 親父はかぶりを振った [08:55.93]けれど妹の真実を見た時 [09:02.82]目を閉じ深く息をして [09:06.06]小さな声で… [09:11.00]"わかった娘は くれてやる [09:14.27]その変わり一度でいい [09:17.78]うばって行く君を 君を殴らせろ"と [09:24.92]言った m~ [09:31.78]親父として m~ [09:41.12]妹の選んだ男に間違いはないと [09:48.20]信じていたのも やはり親父だった [09:54.57]花嫁の父は静かに娘の手をとり [10:00.29]祭壇の前にゆるやかに立った [10:08.98]ウェディングベルが避暑地の教会に [10:16.04]鳴り渡る時 僕は親父を見ていた [10:22.65]まぎれもない父親の涙の行方を [10:30.18]僕は一生忘れないだろう [10:36.86]思い出かかえて お袋が続く [10:43.66]涙でかすんだ 目の中に僕は [10:50.77]今までで 一番きれいな妹と一番立派な [10:58.11]親父の姿を刻み込もうとしていた m~ [11:11.72]兄貴として m~ [11:26.62]息子として