「こんにちは。君一人?あは~そんなに警戒しないでよ。あまりに綺麗な子がいたから、思わず声をかけちゃった。うちの生徒だよね?何回か講義で見かけたことがある。 こんな所で女の子が一人で佇(たたず)んでいると誰かに無理やり連れて行かれちゃうよ。 ほ~ら~こうやって?フフうそうそ~そんな目で睨(にら)まないでよ。抱きしめるフリをしただけなのに。君に嫌われたら、僕、悲しいな~」 「ところで、さっきからずっと壁にかかってる書を見つめてるけど?そんなに気になる?大きいよね~たしか縦横2メートル以上あるとか。 フフ、口開いてるよ~え?とても綺麗な文字だから、つい見とれていたって?うれしいな~実は僕が今回のサークル展示に合わせて書いたんだ。 その顔は信じられないって顔?心外だなぁ~この字、なんて読むか知ってる?億千万の「万」に時代の「代」と書いて、「よろずよ」と読むんだよ。 意味は?え、ええと?なんだっけな?意味が分からないとますます怪しいって?度忘れしちゃっただけだよ!所詮お遊びで書いたものだし。」 「ねぇ、僕、君のこと気に入っちゃった。だって、見てると表情がクルクル変わって、とっても可愛い。 よかったら、この後どこかに行かない?二人きりでゆっくり?いやなら別に断ってもいいけど?ただ、君のことをもっと知りたいな~なんて。」 女の子を口説くなんて簡単なこと。やさしく近づいてそっと耳元で囁けばいいだけ。でも、彼女は違った。 初めて講義で会った時から、ずっと気になっていた。でも、今まで声をかけられなかった。 周りの女の子とは違う独特な雰囲気に?僕は、ずっと前から惹かれていたのかもしれない。 「これから行くところがあるって?仕方ないね~じゃあ、また誘うよ。」 『吾妹子が笑まひ眉引き面影にかかりてもとな思ほゆるかも』 彼女の笑顔、笑うと少しあがる眉。その笑顔が僕の心から消えない。 ねぇ、もっと僕にいろいろの顔を見せてほしい。もっと君のことを知りたい。こんな風に思うなんて??