「僕がそんな大きなことを引き受けてしまってよろしいんですか?」 と聞くと、知人は微笑みながら「小さい頃から貴方の字を見てきたが、成長した今の字も見たい」と答えてくれた。 僕のことを小さい頃から知っている父の友人が書道展をやらないかというい話を持ちかけてきた。場所は古美術の店が連なるエリアの一軒の画廊だった。 「本当に僕なんかでいいのかぁ?簡単に引き受けちゃったけど…まあ~でも、今更悩んでもしかたないかぁ~確かに話を聞いた時雑誌やテレビに《新進気鋭美形書道家の素顔に迫る》みたいな風に取り上げられたら面白いよなぁ~とは思ったけど…」 あのキス以来、彼女からの連絡はない。何度も連絡をしようとしたが…これ以上彼女に嫌われるのが怖くて、ずっとできないでいた。でも、迷っていたら友達にも戻れない。僕は彼女の本当の気持ちが知りたいだけだ、嫌われていてもいい。思い切って書道展への招待葉書を送ってみることにした。あえてメッセージはなにも書かずに。 「彼女のもとへ、ちゃんと届けてくれよ。君とまた笑顔で笑い合える日が来ることを…僕は待っている。」 その日が来るまで、僕は一文字一文字君への思いを込めて書き続けよう。出逢った時から今までのことを…ありったけの思いを込めて。 『雪こそは春日消ゆらめ心さへ消せ失せたれや言も通はぬ』 君は雪と一緒に僕を忘れてしまった?近頃連絡がないのが気になるよ。 「早く家に帰って、書道展の準備しょっと。あと少し…だから…」