「はぁ~もう飽きた!」 書道展の準備で散らかった部屋を見るのにうんざりした僕はベランダに立った。 「夜風が気持ちいいなぁ~」 「ふう~タバコなんて、何年ぶりに吸ったんだろう?はあ、月が出てる。こんな都会の真ん中でも月は綺麗に見えるのか。そうだ!これを添付して、送信…あっ」 思わず彼女にメールを送ってしまいそうになった。ただ月が綺麗だってことを伝えたいだけ。でも…いまの僕はそれさえもできない。僕は書きかけのメールを消して、携帯電話をしまいこんだ。 「はぁ~会いたいなぁ。書道展に来たら素っ気無い態度でありがとうって言ってやる!驚かせるのも悪くないよな。」 そう自分に強く言い聞かせる。そうすれば、また頑張れそうな気がするから。 『百づ島足柄小船歩き多み目にこそ離るらめ心は思うへど』 忙しい日が続き、いまは君を遠くに感じる。でも、僕は僕なりに君のことを考えているんだ。 僕はまだ長いタバコを灰皿に押し付けて、早々に部屋へと戻った。