今年の冬 電気ストーブの低いノイズと 君の寝息がとける頃 そっとベッドから抜け出して キッチンでミルクをついだ 幸せを確かめたくて 眠れない夜があるね 目覚しの赤いLEDが 誕生日の日付けになった 気に入ってたセーターを 相棒の犬がかんでいて ひどく叱り付けていたら あげたのは私よと笑った 今年の冬も僕には 君がゆっくり積もる この街のあたたかいものを 集めても君にはかなわない 去年の寒かった夜 雪が降った日のように 何時でもかまわずに 僕をゆりおこす君でいて 手渡してもらう年賀状は もちらん宛名もないけれど 二人の名前で誰かに 送る日のことを思った 空っ風が窓を揺らす 自慢できることといえば ポケットを君にぴったりの 手袋に変えれることくらい 新しいカレンダーには いろんな記念日があるけど 別に何でもない時こそ そばにいる二人でいようよ すべてに慣れることで 君がいなくならないように コトバで伝えられなくても 僕は僕のことをがんばる 松本英子「今年の冬」 今年の冬も僕には 君がゆっくり積もる この街のあたたかいものを 集めても君にはかなわない 僕とまちがえて君が 抱きしめて眠る犬に 少しだけやきもちを焼いた 自分にてれる冬の夜 終わり