松葉杖に すごく憧れてた ひまわりの茎に マジックて書いて 成長と共に 黒いのが伸びるのを 観察してたっけ 私も 知らない間に だいぶ伸びてたんだ 小学校の下駄箱の背が こんなに小さかったなんて 苦い薬が あんなに嫌いだったのに 今じゃ信じられないくらい 苦いお酒なんか飲むこと 服の趣味も 友達の言葉選びも ゆっくりと 大人び始める前 小さな頃の 私の髪形と よく似た影が 並んだ机を横切る 廊下を走り抜けて 怒られても 少し時間が経ったら けろっとして過ごしてた 懲(こ)りない学(まな)ばないと 言われ続けたけど もうあんなふうな毎日は 許されやいないんだろう 甘いものは まだ好きなままだけど 今じゃ信じられない あんなにお菓子ばかり食べられたこと 話題の種も 男子の子供っぽさも 目紛るしく 様変わりを始めるより前 小さな頃の 私の髪型と よく似た影が 目の前を走り抜けていく 定期的に手入れする革靴 キャラクター入りのビニール靴はいつも最強だった やっとみつけた 肌に合うファンデーション 髪留めの大袈裟なチャームは宝石級だった 優しくありたい人なんかもできて 何かのかたちに似た雲に心底笑った 未来は思うよりずっと悪くないよ みんなで 世界で一番素直に笑った 身長も 教室に落ちる窓の影も こんなに伸びて あの頃と繋がってしまった 幼い私に よく似た髪形の 小さな影は 紛れもない私だった 「さようなら」と先生に告げるようにして こちらに手を 振って翻る 小さな頃の私の後ろ姿が 教室の後ろの扉へ 駆けて行く 先生用の上靴は 大きさが違い過ぎて なんだかおばけみたいだって思っていたっけ 松葉杖に憧れた頃は 思いもしなかった 将来それが自分の為に 用意されるなんてこと