作词 : 戸川純 作曲 : 戸田誠司 (鈍い音がして 私は我に返った その前の記憶がない 混沌と焦燥の中で立ち尽くす私の右手は ずしりとした鈍器を握りしめていた 足もとに目をやると 可笑しい位説明的に 彼が後頭部から 赤黒い血を流しながら 瞳孔を開いて 床に倒れていた その瞬間 私の記憶がくるくると ビデオの早い巻き戻しの様に 戻り始めた そして あるひとつのシ一ンが私の脳裏に再生された) 哀しい現実的な声 クリアな声で 彼が最期にのこした言葉 「別れてくれないか」 (単純な 呆れる程単純な 表現としては あまりにも稚拙な一節 が 私にとって非常に残念だったのは それが 単なる表現のみを 目的とされたものではなかったことだ 私がもう少し 冷静であれたなら 話し合いも出来ただろう いたらなかったところは 直すから 別れないで欲しい 私に生理的嫌悪感を いつのまにか 感じるようになったということなら やむを得ない といったところか しかし 実際は彼の言葉を聞いたときに いきなり 強いパルスというか 電気的なものが 身体中を走って 衝動のみにつき動かされる私が そこにいただけだ 私はやっと後悔に辿りついた 好きだったから) 丸く開いた彼の瞼を ごめんねって閉じて 汚れた身体を拭き きれいなシャツに 着替えさせて 陥没した頭部に 泣きながらごめんねって 何度もキスをしたの 唇を 血まみれにしながら (そのとき 私の腹部を 内側から 小さな力で 小さな足が蹴った 七ヶ月になる 彼と私の子である 私は何とか冷静になろうと努め ひとつの答えを出した 殺人者の子と呼ばれる この子の生涯を考えれば 私は極刑を与えられるか 今この場で自害するべきだ おなかの子と一緒に しかし何だろう 「エゴ」や「自己逃避」という言葉と共に 何だろう ある強固なひとつの意志が 急に頭をもたげ始めたのだ 人類がその血を絶やさない為に 人間に 女性に与えられた大自然のちから……!) 賢い いい子のはず やさしい あの人の子だもの 一生懸命そう育てよう かわいいよう どんなことがあっても きっと守ってあげなくちゃ 漲る力と自信 たぶん そう これは本能 もう人をあやめずに 冷静に 逃げ延びて生きるわ あの人に誓って 抱きしめよう 大地を踏みしめて (やがてこの子が独り立ちし 私が最低限の義務は果たせたと思う頃 やっと私は本来の刑を 自分に処することが出来るだろう ひっそり 静かに 樹海に入ろう 自害より 行方不明の方が この子にとってましだと思うから その後 ことの顛末を この子が知る日が来ても きっと慈悲深く動じない そんな子に…… それまで頑張らなくちゃ!!)