「anesthesia」 作曲.編曲:zts 止(と)まったままの時計(とけい)の針(はり) 散(ち)らばった造花(ぞうか)のはなびらに あやうく光(ひかり)がまつわり かすれたいろの皿(さら)の上(うえ)で黴(かび)の花(はな)がほのめいている 湿気(しっけ)にあえぎながら いまも消(き)えない そのざわめき その不確(ふたし)かな残像(ざんぞう)は ちかくとおく ふれられそうで ふれられない ああ もう届(とど)かないあの場所(ばしょ)に 忘(わす)れたものがあるらしい 二度(にど)とは取(と)り戻(もど)せない それだけはわかっている ああ もう戻(もど)れないあのときに 捉(とら)えたものがあるらしい またたくその瞬間(しゅんかん)に みえないものが見(み)えた気(き)がして ――ふとした痛(いた)みに襲(おそ)われる 壁(かべ)にかかった洋服(ようふく)の袖(そで) あいまいな折(お)り目(め)の墨(すみ)いろに 煩瑣(はんさ)な言葉(ことば)がからまり いまは無理(むり)だと答(こた)えるたび 少(すこ)しずつ何(なに)かを失(うしな)った 焦(あせ)りにかられながら 流(なが)されてゆく 埋(う)もれてゆく 時間(じかん)だけがただ過(す)ぎてゆく 熱(ねつ)は冷(さ)めて奪(うば)われても 抗(あら)がえない ああ まだ何(なに)もないこの場所(ばしょ)で 自分(じぶん)だけは相(あい)も変(か)わらず 何(なに)かをつくろうとして ひとり息(いき)を殺(ころ)している ああ 口(くち)では上手(うま)くいいながら 自分自身(じぶんじしん)に嘘(うそ)をつく 周(まわ)りを見渡(みわた)す前(まえ)に 大事(だいじ)なことを忘(わす)れている ――そうして痛(いた)みは消(き)えてゆく 切(き)り離(はな)された 距離(きょり)と時間(じかん) いつも少(すこ)し遅(おく)れて気(き)づく だけどそれも麻酔(ますい)のような空白(くうはく)に 侵(おか)されて みえなくなる きこえなくなる ああ この傷口(きずぐち)はいつの間(ま)に 大(おお)きくなっていたのだろう 流(なが)れて落(お)ちる過去(かこ)が 血(ち)だまりをつくっている ああ まだあきらめていないのは 行(ゆ)き先(さき)を思(おも)い出(だ)せるから それでも追(お)いつくことができない いまの自分(じぶん)には もう―― 届(とど)かないあの場所(ばしょ)に 忘(わす)れたものがあるらしい 二度(にど)とは取(と)り戻(もど)せない それだけはわかっている ああ もう戻(もど)れないあのときに 捉(とら)えたものがあるらしい またたくその瞬間(しゅんかん)に みえないものがみえる気(き)がした ――いつしか痛(いた)みは消(き)えている