彼女は今日も種をまく 魔女狩り 収録:幼蚕文庫 - ひとり芝居 愛しい人が居りました あの人も今は墓のした わたしを置いて墓のした まみえることもかなわない 人も世界も色を変え わたしだけが変わらない 愚かで夢見がちな侭 古びた恋慕も捨てられず 迫り来る足音 木炭と錆のにおい 変わらぬ彼女を裁く為 世界が揺れる 花煙る春 草木しげる夏 甘く実る秋 森が眠る冬 世界は急ぎ足 歩めない彼女 人々は叫んだ ”あいつは魔女だ!” 肌に喰い込む鎖 神様の炎に焼かれても あなたのもとへいけないのですか 罵声の響く広場 燃えさかる広場 我先と火を注ぐ 時代の操り人形 甲高い叫びが 晴れた空に消える 火種がなくなれば ”もう誰も居ない” 二度三度まばたく うつろな睫毛の羽音 四度五度きしんだ いびつな骨のリズム 柔らかな灰を退け 白く伸びた腕 彼女の声が鳴いた ”わたしは生きている” 彼女は今日も種をまく いとしい季節を見送って 変わらぬ彼女の物語 いついつまでも続くでしょう