私と、彼女は、多分友人でした。 その子の名前は、こちやさなえ。 今はこうして、夢の中でしか思い出せない、そんな彼女。 風の中で柔らかく微笑んでいた彼女のこと、現実の私は、忘れてしまっています。 どうして認識できなくなったのか…… そして、どうして、夢の中ならば、思い出すことができるのか…… それは私が、結界が見える能力を持っている、だからなのでしょう。 世界と世界の境目、ライン区切り 私はそれらを見つけることができます そして、夢の中でなら、それらの世界に踏み入ることもできるのです。 時々不気味に感じてしまうこの能力ですが、今は感謝していました。 なぜなら、その能力のおかげで、私はこうして、彼女のことを思い出すことができるからです。 あの白くて透明な肌も 風になびく綺麗な髪も 落ち着いた心地よい声も 私がなくしたくない 失いたくない 彼女の大切な思い出でした だからこうして、あの日のことを夢に見ると 私はつい、涙してしまいます 目が覚めた私は、自分がなぜ泣いているのか、分からなくて ただただ、焦燥感に似た寂しい気持ちが胸を締め付け、また泣いてしまうのです。 そんな日はつい、蓮子に甘えるようなことを言ってしまいます 夢で見るのはいつだって、あの時の風景 私が彼女と最後に会った夕暮れの時。 それは、おそらく 彼女がこの私たちの世界からいなくなる、その直前でした。 早苗:お久しぶりですね、マエリベリーさん。 あの日、久しぶりにあった早苗さんはあ。以前と同じように、微笑んでいました。 梅莉:あ!久しぶりねさ/なえさん。それと、メリーでいいよ~ 早苗:あ、それでは…メリーさん...ですね? 梅莉:うん、それでお願いね~ 早苗:なんだか、会えて嬉しいです。 そう言って、嬉しそうに頭を下げる彼女は、まるで、夕闇の中に消えてしまうかのような、そんなはかなさを持っていました。 梅莉:私も会えて嬉しいけれど…… その雰囲気がおかしいことくらいは、当時の私でも、分かっていました。 その彼女から、何と言いますか。 私が夢で見るあちら、側の世界、その気配を感じ取ったからです。 今にして思えまあ、納得できることもあります。 あら人神、人間でありなだから、神の奇跡を起こすもの。 彼女のいない今のこの世界では、なくて当然の存在ですが。 彼女がいた時のこの世界でもうん。彼女はやっぱり、得意な存在で。 人々は、彼女の奇跡を信じなくなり、次第に、彼女のことを忘れ去っていきました。 この世界から、忘れ去られるものが集う、あちらの世界、彼女が向かってしまうのは、必然だったのかもしれません。 早苗:どうかしましたか、メリーさん? 梅莉:え、あ……なんでもないよ…… 早苗:そうですか…なんだか、とても寂しそうな顔をされてます。 梅莉:そうかな…… 早苗:私はメリーさんの笑顔が好きなので、できれば笑ってほしいのですけれど。 梅莉:あーうん、いきなり笑えって言われても、私にはそういう演技の才能がないからね。だから早苗さんに、お願いしようかな~ 早苗:しまった私が面白いことを言わなければいけなくなってしまいましたか…? 梅莉:奇跡的に面白いジョークを期待していいかな? 早苗:そ…さらにハードルを上げましたか……えーと...... 梅莉:うんうん~ 早苗:Byō…病院が吸ったんだ! 早苗:Byō~in~ 梅莉:あー…えっと…… 早苗:ごめんなさい!!!ストーブがストーブと迷ったんですけど…… 梅莉:まあ病院が吹き飛ぶ方が何というか奇跡的だものね~ 早苗:よかった、受け入れてくださって、それにちゃんとメリーさんが笑ってくださったのでオッケーです。 梅莉:本当だ! 私は…今のジョークのの内容よりも、早苗さんの可愛らしさに微笑んでいて。 してやられたなと思ったのでした…… 早苗:それにしても、懐かしいですね。メリーさんと出会ったのもこんな夕焼けの綺麗な日でした。 梅莉:私がレポートで神様についてを教えてもらいに行った時だったっけ? 早苗:はい、こんな綺麗な人がいる大学なら、私も行ってみたい、思ったんですよ。 梅莉:あら私も。こんな綺麗な子が後輩だったら、もっと色々楽しかったかもしれないわね。 早苗:今は楽しくないのですか? 梅莉:ううん、楽しい、親友も変わり者だけど、面白いですね。 早苗:そっか……会いたかったな、親友さん。 梅莉:あ…じゃあ、今度紹介するよ、神社に連れて行くね。 早苗:うんうん…… その時の早苗さんの顔、今でも忘れられないもので。 早苗:はい!それじゃあ、是非、なんだ…… 夕日を背景に、その微笑みは、まるで泣いているように見えました。 梅莉:さなえ…さん? 早苗:じゃあ、会えたのがメリーさんでよかった…… 梅莉:そう…思います…なんとなくだけど、私も…今日会えてよかったで、思った… 早苗:メリーさん…… 同時に、なんとなくですが、もう、会えないような、そんな予感が、確信になったのでした。 梅莉:うん、だからさあ、早苗さん、だから、次に会う時は、お互いに、とっても笑顔で会うね、さなえさん。 早苗:そうですね…うん…… 梅莉:奇跡的に面白いジョーク、期待してるよ! 早苗:あ…そうですね……はい!ね、必ずまたお…会いしましょう。その時は私も…私も…私が大好きな…二人を紹介します。 梅莉:じゃあ、約束ね、早苗さん 早苗:はい! そして私たちは、夕暮れを背景に。まるで、子供のように、小指と小指を絡めて、お互いに満面の笑顔で別れました。 梅莉:またね、早苗さん…… 早苗:はい……まだですよ、メリーさん…… その瞬間、私たちの間に、とても優しい風が、吹いたのでした……