胸元(むなもと)に薄紅(うすべに)の 彼方(あなた)の貌(かたち)ぞ残(のこ)れり 唇(くちびる)に面映(おもは)ゆき 艶々(つやつや)の夜(よ)の香(か)は 今昔(いまむかし) 徒(いたずら)に時(とき)は流(なが)れ 便(たよ)りなき花(はな)は枯(が)れてゆく 音(おと)をなす人も無(な)くに 水面(みなも)にまた一滴(ひとしずく) 水色(みついろ)の玉響(たまゆら)ぞ 何故(なにゆえ)この身(み)に幾度(いくど)も 一人(ひとり)寝(ね)の寂(さび)しきに また衣(きぬ)を濡(ぬ)らす 文無(あやな)きや文無(あやな)きや 思(おも)いはまだ遠(とお)く 山(やま)の端(は)に久方(ひさかた)の 色(いろ)濃(こ)い陽(ひ)が出(い)づる 清(さや)か