第十一課 留守番電話 留守番電話を利用する人が多くなった。 留守番電話は確かに便利である。 だれも家にいないときにだれかから電話があった場合、 あとで録音テープでその内容を知ることができる。 家にいるときでも、 ふろに入っていたりして 電話に出ることができないこともある。 例えば、食事中やテレビでおもしろいドラマを見ているときなど、 電話に出なくてすむのは、 ありがたいことである。 それほど便利なものであるが、 つけたくないと言う人も多い。 電話をかけたとき 相手の声でなく、録音テープを聞くのが不愉快なためである。 「いま留守です。ピーという音のあとで、 ご用件をお話ください という事務的な声を聞くのが嫌いだし 人にもそんな声を聞かせたくない、 という人が多い。 留守番電話の伝言にしたがって 電話してみると その人も留守番電話をつけているので、 録音テープに話をする。 その返事もまた録音テープということもある。 こうなると、人と話すのでなく いつもマイクに向かって話すことになる。 普通の人も、テレビやラジオのアナウンサーになったようなものだ。 話しかけてすぐ返事を聞くことができるのが、 電話の魅力であるが、 留守番電話ではそれがない。 手紙を受け取って読んで、 返事を書いて送るのと似ている。 もちろん、その早さは手紙と比較にならないが 同時性がないという点では、 手紙時代に逆もどりしたような気がする。 (一)(留守番電話の例。 Aは男性であるが、女性でもほとんど変わらない。 もしもし、山下さんですか。川上ですが 山下でございます。 ただいま留守でございます 恐れ入りますが、ピーという信号音が聞こえたら ご用件を話してください テープは一分間ですから、 一文以内にお願いします。 ああ、これは留守番電話だな。 ピー。 えーと、あのう、もしもし川上ですが……。 今度の仕事のことなんですけどね、 この間15日で結構ですと言ったんですが ちょっと都合がわるくなりましたので… すみませんが、十八日か二十日にしてくださいませんか。 できれば二十日のほうがいいんですが……。 どうなんですか あ、返事はないんだった。 あのね、それから、田中さんに連絡したら 家の人の話では、いまヨーロッパ旅行中なんだって……。 うらやましいねえ。 それでね、あの……。 ピー。 ええ?ひどいなあ。 (二)(夫と妻の会話) ねえ、うちも留守番電話にしましょうよ。 どうして。 うち、共働きだから、昼は留守が多いでしょ? うん。 友だちが、「お宅はいつも留守ね」っておこるのよ。 夜、電話してくださいって言ったら? でも、夜は電話がきても、 出られないことが多いのよ。 おふろに入っていたりして……。 うん テレビでおもしろいドラマやってるとき 電話に出ると、話が分からなくなるし…… そうだね。 だから、留守番電話がいいと思うけど。 でも、人に電話したとき、録音テープの声が聞こえるのは、いやだな。 そう。 ピーっていう音を聞いて 急いで録音するんだろう? ええ、そうよ。 アナウンサーじゃないんだから、 マイクに向かって話すのはいやだよ。 でも、うちが留守番電話にしたら、 録音をするのはほかの人よ わたしたちが録音するんじゃないのよ。 自分がしたくないことは、ほかの人にもさせたくないよ。 ああ、そう。じゃ、留守番電話はやめましょう。 いいの? ええ。残業を断って、早くうちに帰るね。収入は減るけど。 応用文 テレビ電話 兄さんに、アフリカから、宇宙中継でテレビ電話がかかってきた。 テレビスクリーンに出てきた人の顔を見て みんなはびっくりした。 色のまっ黒な黒人だったからだ。 黒人は、まっ赤な口をぱくぱくと開けて、 なにか、いっしょうけんめいにしゃべる。 だが、なにを言っているのか、さっぱり分からない。 兄さんは、英語で聞き返した。 しかし、黒人は首をかしげ、いっそう早口になって。 わけのわからないことばをまくしたてる。 お父さんがフランス語で試してみた。 しかし、それもだめ。 兄さんが、あまりうまくないドイツ語で 話しかけてみたが、こらまた、むだだった。 その黒人は、その国語のどれも習ったことがないらしいのだ。 「よわったな…….。この人のことばは、 どうやら、アフリカのスワヒリ語らしいけど ぼくは、アフリカ語は弱いんだ。」 「わたしもだめだな。 インドネシヤ語なら、すこしは分かるんだが。」 お父さんも首をひねった。 黒人も、弱ったような顔で、こっちをながめている。 すると、ママがふとおもい付いたように ホーム電子頭脳の前に寄り、 マイクを取って話しかけた。 「あなたの記憶装置には、 アフリカ、スワヒリ語は記録されていたかしら? ホーム電子頭脳の信号ランプが、二?三回、 ぱちぱちとまたたいたかとおもうと スピーカーから気持ちのいい男の声が流れてきた。 「ハイ。アジア、アフリカ語ハ、二十か国語ガ、 キオクサレテイマス。 スワヒリ語モ、ホンヤクデキマス 「それはありがたい。」 兄さんがおどり上がって言った 「それじゃ、いまテレビ電話に出ている人のことばを通訳してくれ。」 「カシコマリマシタ。」 兄さんは、ホーム電子頭脳のダイヤルをひねて、 テレビ電話と連結した。 それから、テレビ電話に向かって言った。 「もう一度始めから話してください。 今度は分かったでしょう?」 すると、黒人の顔がぱっとうれしそうに輝いた。 もちろん、今度は兄さんの日本語は向こうには スワヒリ語に通訳されて聞こえたのだ と思うと、スピーカーから流暢な日本語が響いてきた。 ホーム電子頭脳の翻訳回路がスワヒリ語を日本語に通訳したのだ。 「わたしは東アフリカ共和国のロンボクというものです。 いま日本東都大学に留学しているメケメケのいとこです。」 「そうか!メケメケならば、ぼくの親友ですよ。」 と兄さんは大きくうなずいて言った。 「それで、メケメケとは連絡が取れたんですか。 ロンボクは困ったような顔になった それがだめなのです。 東都大学の留学生会館に電話したんですけど 留守なんです それで、いちばんのお友だちのあなたならば、 行き先が分かるかもしれないと思ってお電話してみたんです。 ああ、それなら分かりますよ。 兄さんはせき込んで、 メケメケはいま南極市へ行く途中なんです いまごろ南極行きのロケット機に乗っています。」 それは困った……。どうして連絡を取ればいいでしょう? ロンボクが眉をひそめて言った 大丈夫ですよ。この電話を切って少し待ってください。 いまこっちからそのロケット機にテレビ電話をかけて、 メケメケを呼び出し、 そっちへ電話するように言ってあげます。 ロンボクが顔を輝かしてうなずいた。 単語るすばん(留守番) 留守番電話 ドラマ 不愉快 事務的 伝言 従う 返事 アナウンサー 話しかける 魅力 比較 同時性 逆もどり 男性 もしもし 女性 山下 川上 信号音 以内 うらやましい(羨ましい) 夫 妻 ねえ 共働き 減る テレビ電話 アフリカ 中継 スクリーン まっくろ(真っ黒) 黒人 真っ赤 ぱくぱく だが さっぱり 聞き返す いっそう 早口 まくしたてる ためす(試す) 弱 弱る どうやら スワヒリ インドネシア 首をひねる ふと 思い付く ホーム 電子頭脳 装置 ランプ ぱちぱち またたく(瞬く) スピーカー 躍り上がる ダイヤル ひねる(捻る) 連結 かがやく(輝く) 流暢 回路 共和国 ロンボク メケメケ 親友 うなずく(頷く) 会館 行き先 せきこむ 南極市 ロケット 眉をひそめる 輝かす