第十二課 コピー食品 コピー食品が出回っている。 コピー食品というのは、本物ではないが、 本物によく似ている食品である たとえば、かにの足のように見えるが 実は安いさかなで作ったものや サラダオイルで作ったイクラなど、 たくさん出ている 本物よりずっと安い材料を使ったり 普通なら捨てる部分を集めて上等の肉のように作ったりする お客は安いと思って喜んで買う。 このようなコピー食品を作るには、 高度な技術が必要である。 最近は加工技術が進んだので、 味、色、形から、香り、歯ざわりまで、 本物そっくりの物を作ることができる。 しかし、安い材料をおいしくするためには、 たくさんの食品添加物を使う また、大きな工場で大量に作るから、 合成保存料などもたくさん使う必要がある。 こうしてできたコピー食品は形が同じで 料理しやすいから、 学校給食や外食産業で使うのに向いている。 これから大きくなる子供たちが コピー食品をたくさん食べるのは、 心配なことである しかも、本物のさかなと違って骨がないから。 喜んで食べる場合も多いそうだ。 にせものの食品は昔からあった。 安いさかなを高いさかなの名前で売ったりすることは 珍しくなかった しかし現在は、 加工技術の進歩のために 人間の体に悪いものが出回るようになった 科学の進歩が人間を苦しめるのは残念なことである。 会話 (一)(会社で残業中の社員の会話。Aは男性、Bは女性。) このおすしはどうしたんですか。 部長のおごりです。 先に帰るから、食べてくださいって。 へえ、珍しい、じゃ、食べましょう。 ええ。 お、イクラが入っている ぼく、イクラ大好きなんです。 じゃ、わたしのもどうぞ。 いいんですか。 ええ、わたしはいりませんから、どうぞ。 じゃ、いただきます でも、どうしてですか。 安いイクラはコピー食品だって聞いたので。 コピーって、にせものですか。 ええ、サラダオイルで作るんですって。 へえ?でも、色も形もそっくりですよ。 (食べて)味もそっくり。 歯ざわりも。 ええ。 このかにの足も、きっと安いさかなですよ、本当は。 でも、うまいですよ。 すばらしい加工技術ですね。 食品添加物がたくさん入っていますよ そうでしょうね。 合成保存料も。 ちょっとこわいですね。 そうですよ。 特に子供が学校給食や外食でコピー食品を食べるのは、心配ですよ でも、どうしてこのイクラやかにがコピー食品だと分かるんですか。 部長のおごりですもの。 (二)(夫と妻の会話、デパートの食品売場で。) あら、これ、安いわ。 どれ? このイクラ。 ほんとだ。 どうしてこんなに安いのかしら。 うん…、あ、分かった。 このごろはやりのコピー食品だよ。 コピー? にせものだよ。 たしか、イクラはサラダオイルで作るんだよ。 へえ、でも、本物そっくりね。 しろうとには区別ができないんだって。 食べても? うん。 じゃ、いいじゃないの、コピーでも。安くて。 そんなことないよ。 どうして? 自然の食品じゃないんだ。工場で作るんだよ。 そうね。 どんな添加物が入っていつか、分からないよ。 そうね。 合成の保存料もたくさん入っているよ、きっと。 そうね。じゃ、やめましょう。 やめて、本物を買う? いいえ、本物のサラダオイルを買って… え? 安いさかなのフライを作りましょう。 応用文 二十一世紀の食事 ある日曜日の夕食のときである。 大好きのステーキを、 黙々と食べていた長男のたかしが 突然フォークを置くと、 言い始めた。 「おとうさん、ぼくはこのごろ、ほんとに迷っちまうんだよ。」 「なにに迷うんだ?」 「二十一世紀にさ。」 「二十一世紀に、どうして、迷うんだ?」 と、わたしは、なんのことか分からずに、聞き返した。 「つまり、二十一世紀になるのが、 うれしいか、つまらないか、分からなくなっちまうんだ。 たかしは、フォークを取り上げて、ステーキをもう一切れ口に運びながら、続けた。 「だって、二十一世紀になると こんなステーキはなくなって、 食事はチューブ入りのゼリーみたいなものか それとも錠剤を三粒ぐらいですますようになってしまうんでしょう? いや、注射するようになるかも知れないんだっけ。 ぼくは、未来は好きなんだけど、 どうも、そこんところが気に入らないんだ。 たかしはひとりでうなずきながら、 あらためて、肉の味を味わおうとするように、ゆっくり肉をかんだ 「また始まったわね、たかしのへ理屈が。」 ママが冷かすように言ったが、 たかしは気にもしないようで、 「でもやっぱり、ぼくは未来が好きだな コンコルドや、ロッキード二二七0みたいなすごいSSTはじゃんじゃん飛ぶようになるし エアカーや、動く歩道も実用になるし。 未来ってかっこいいからね。」 わたしは、たかしのまじめくさった顔を見て、 思わず笑いだしそうになったが、 考えてみれば、もっともな心配だ。 もし、二十一世紀が、 うまいものを食べられなくなる時代なら、 たかしたち少年にとってだけでなく、 おとなたちにとっても大問題だからだ。 単語コピー 出回る サラダオイル イクラ 材料 上等 高度 加工 歯ざわり そっくり 食品添加物 大量 合成 保存料 給食 外食 骨 にせもの(偽者) 苦しめる おごり(奢り)へえ はやり(流行) しろうと(素人) フライ ステーキ 黙々と 長男 たかし(孝) 突然 フォーク ひときれ(一切れ) だって チューブ 入り ゼリー 錠剤 粒 注射 未来 あじわう(味わう) かむ(噛む) へりくつ(屁理屈) コンコルド ロッキード SST じゃんじゃん エアカー 歩道 実用 かっこいい まじめくさる(真面目くさる) もっとも 少年 大問題