第三課 日本人とヒューモア 本文 一般的に、日本人はまじめすぎると見られがちですが、 実は笑いが大好きな国民なのです。 では、日本人の笑いの特徴をいくつか見ていきましょう。 「ボケ」とは周囲の笑いを誘うような間が抜けた言動のことです。 失敗や勘違いによるボケもありますが、わざとボケることもあります。 誰かがボケたとき、それを指摘するなどして笑いを引き出すことをツッコミといいます。 わざとボケた者は、大抵誰かがツッコミを入れてくれるのを期待するものです。 ボケとツッコミの会話を芸にしたのが漫才です。 一方「起承転結」は物事の順序や話の組み立て方を表した言葉です。 日本人にはよく知られていて、ストーリー性のある話には、 最後にはちゃんと「結」があります、そこで「なるほど」と感心したり、 「アハハ」と笑ったりできることが期待されます。 聞き手が満足する結末である場合、「話に落ちがつく」といいます。 落ちがつく笑い話を一つの芸に高めたのが落語です。 落語は面白い話を語って聞かせる、日本の伝統的芸能です。 主に会話の形式で話がすすめられ、登場人物が二人以上いても、 一人の落語家が身振りと手振りのみでそれを演じ分けます。 そして最後に「オチ」(落ち)と呼ばれる結末がつくところから「落」語と呼ばれます。 落語家は着物を着て、扇子と手ぬぐいを持って「高座」に上がります。 扇子は箸や刀や筆になります。手ぬぐいは本や手紙になります。 落語は1500~1600年頃に、お坊さんや学者などが、 織田信長や豊臣秀吉などの戦国大名に面白い話をしたのが始まりと言われています。 江戸時代(1603~1868年)になると、 京都、江戸(今の東京)、大阪で道に立って人々に話をする「噺家」が出てきました。 江戸時代の終わり頃、 落語を聞くことができる場所「寄席」ができてたくさんの人が落語を聞きに来るようになりました。 今でも、大阪と京都に寄席があります。 寄席というと、なんとなく敷居が高く行きづらいと感じる方もいるかもしれませんが、 そんなことはありません。 寄席には老若男女を問わず、大勢のお客様が集まり、ときには立ち見がでることもあります。 会場はいつも笑いに包まれています。 寄席で観られるのは落語だけではありません。 講談、漫才、漫談、音曲、手品、曲芸など、バラエティーに富んだプログラムになっているのです。 会話 インタビュー (A:記者 B:落語家) A 落語の魅力ってというと、どういうところですか。 B そうですね。えー、無駄がないところだと思います。 A はあ、無駄がない。 B あの、演じる側に、こう、無駄が全くないところが、落語のいいところだと思います。 座布団というものの上に、着物を着て座ります。 A はい。 B で、座って、おしゃべりをすることになっているんで、 自然と、こう、上半身だけの動きで。 A うん B あの、お客さまに物事を伝えなくてはいけないわけです。 A そうですね。何もセット解かないですよね。 B はい。あの、漫才と違って、こう、横に誰かついてくれているわけでもありませんし、 まあ、特別な場合を除いて、音楽が入るということもありませんので……。 A はい。 B 自分一人で、右を向いて、左を向くことで、二人の人物、 複数の人物を演じ分けるわけですから、演劇とか、 先程いった漫才、講談、浪曲、一番シンプルな形をとってるのが、落語なんじゃないかと…。 A ああ、そうですね。音楽もなくって、セットや大道具とかそういうものもなくって…。 B はい。 A 相手役もいない。しかも、座った状態で、正座ですよね。 B 正座です。 A ところで、今まで落語家になられて、大変なこととか、 もう辞めたいなとか思ったことってありますか。 B そうですね、あの、私は今31歳なんですけれども、 あの、若手と呼ばれる人間でございます。 まだそれほど経験がないものですから、どうしても、こう、仕事が少ないわけですね。 そうしますと、うちの中で、ゴロゴロ、ゴロゴロと、こう転がっていたりわけで、 そうすると、昨日の日記帳を見ても、「一日寝ていた」とか。 A はははは。 B 「おかずの種類はなんだった」とか、そういうことばっかり書いていますんで、 そういうときに、「ああ、辞めた時かなあ」と思ったりしますけれども、 でも、落語をやること自体は自分で進んで入った職業ですから、 嫌になったということはこれまではありません。 A けいこっていうのは前に聞いたことがあるんですけど、 あの、落語のおっしょうさんはあり教えてくださらないっていう方もいるような。 B そうですね。 A 「芸は盗め」とかなんか、ちょっと小耳に挟んだことがあるんですけど。 B ええ、「芸は盗むものだ」。私の師匠はそういうタイプなんです。 A 一人でお稽古するっていう場合はどうやってお稽古するんですか。 B えー、そうですね。どこでもできるんです。 道を歩きながらもできますし、あと、うちの中で鏡を前においてやるとか。 まあ、あと、なの、電車の中でブツブツと口の中で呟いてるんですけれども。 A じゃ、電車の中で、ブツブツ言っている人は、 もしかすると、落語家の方かもしれないですね。 Bそうですねえ。はははは。 応用文 饅頭怖い(落語) みなさんは、怖いものがありますか?誰でも怖いものがあると思います。 五人の若い男たちが、お酒を飲みながら話しています。 八郎、角次、熊吉、源太、善助、いつもの五人で、何が怖いか話しています。 八郎 「みんなは何が怖い?俺は長くて細いものが怖いな。蛇とか、ウナギとか…。」 角次 「おれは蛙が怖い。」 熊吉 「え?蛙が怖い?どうして?」 角次 「蛙は口が大きくて、それが急に開くから怖いんだ。」 八郎 「熊吉は何が怖い?」 熊吉 「象が怖いな。」 八郎 「象か…。大きくからなあ。でも象の目は優しいよ。源太、源太は何が怖いんだ。」 源太 「蟻。」 八郎 「へえー、あんなに小さいものが怖いのか。善助は?」 善助 「えーと…。」 八郎 「教えろよ。ほら、早く、善助。」 善助 「笑わないか?」 八郎 「え?」 善助 「いっても笑わないか?」 八郎「笑わないよ。だから早く言えよ。」 善助 「本当か?本当に笑うなよ。おれは…、おれは、まんじゅうが怖いんだ。」 角次 「まんじゅうって、あんこが入っていて甘くて、おいしいお菓子のまんじゅうかい?」 善助 「そう、お菓子のまんじゅうだ。ああ、怖い、怖い。 それに、おれはまんじゅうって言っただけで、気分が悪くなるんだ。うううううう…。」 そう言うと、善助は隣の部屋に行って寝てしまいました。 八郎 「聞いたか?善助は饅頭が怖いんだと。」 熊吉 「聞いた、聞いた。いやあ、知らなかったなあ。」 源太 「俺も知らなかった。あんなおいしいものが怖いのか…。」 八郎 「いい考えがあるぞ!」 角次 「何だ?」 八郎 「まんじゅうをたくさん買ってきて、善助のそばに置こう。」 角次 「ははは……それは面白い。」 善助は、みんなに時々噓を言います。 だから、みんなは、今日は善助が困ることをしてやろうと思いました。 善助が怖がるまんじゅうをそばに置いたら、善助はどうするでしょう。 泣くかもしれません。面白いです。 みんなは、まんじゅうをたくさん買ってきました。 そして、善助が寝ている布団のそばに、買ってきたまんじゅうを置きました。 それから、部屋の外で善助がおきるのをまちました。 善助 「あーあ、よく寝たー。気分がよくなったぞ。あれ? こんなところにまんじゅうが!あっ、怖い、怖い。 おーい、助けてくれ!だれか、早くー」 部屋の外でみんなは笑いました。 みんなは戸を少し開けて、部屋の中にいる善助を見ました。 すると、善助は「助けてー」と言いながら、まんじゅうを食べています。 一つ、二つ、三つ、四つ……。どんどん食べて、とうとう全部食べてしまいました。 みんなはびっくりしました。 八郎 「善助がまんじゅうを食べた!」 角次 「十個も食べた!」 善助 「あーあ、美味しかった。」 源太 「おいおい。善助、まんじゅうを全部食べたな。 なんだ、まんじゅうが怖いといのは噓だったのか?」 八郎「善助、本当に怖いものは何だ?」 善助 「熱いお茶が怖い!」 単語 一般的 ボケ 周囲 間が抜ける 言動 わざと 指摘 引き出す 突っ込み 期待 芸 起承転結 組み立て 結末 落ちがつく 笑い話 落語 語る 落語家 手振り 身振り 演じ分ける 落ち 結末が付く 扇子 手ぬぐい 高座 刀 お坊さん 織田信長 豊臣秀吉 戦国 大名 江戸時代 噺家 寄席 なんとなく 敷居が高い 行きづらい 老若男女 問う 立ち見 講談 漫談 音曲 手品 曲芸  バラエティー(variety) 富む プログラム(program) 座布団 自然(と/に) 上半身 セット(set) 浪曲 ジャーナル(法genre) シンプル(simple) 大道具 相手役 正座 ゴロゴロ(と/する) 転がる 日記帳 自体 稽古 おっしょうさん 盗む 小耳に挟む 師匠 タイプ ぶつぶつ つぶやく 蛇 鰻 蛙 蟻 饅頭 餡子 戸