第十四課 ことわざ 本文 前もって注意く用心して事に当たれば失敗のないことをたとえて、「転ばぬ先の杖。」といったり、 事が起こってから慌てて準備することを「盗人をとらえて縄をなう。」と戒めたりします。 古いからあるこのような文句を「ことわざ」といいます。 ことわざは、普段のままの言葉で、口拍子に合うように作られていますから、意味がよく分かり、容易く覚えることができます。 「短気は損気」「亀の甲より年の功」のように、同音を重ねたものがあるかと思えば、 「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。」「桜折るばか、かき折らぬばか。」のような対句形式のものもあり、 また、「すき腹にまずいものなし。」(五七音)「かわいい子には旅させよ。」(七五音) 「帯に短し、たすきに長し。」(七七音)のように、、音数の重ね方で調子を整えたものも、少なくありません。 たとえの多いことも、ことわざの表現上の特色です。 「猫に小判」「二階から目薬」などは、今でも広く知られていることわざですが、 誰かが初めてこれらを言い出したときは、大変気の利いたたとえに思われ、 長く人々の印象にとまって、今日まで伝えらて来たものでしょう。 また、ことわざには、逆説的な言い方や、意味の反対の言葉を連ねたものが少なくありません。 「急がば回。」とさとされ、「話し上手の聞き下手。」と憎まれ口を聞かされては、 普通の言葉以上に、聞く耳には応えたに違いありません。 会話 (一) 男子学生 ねえねえ、驚いたよ。来学期の新しい学習委員、李さんだってさ。 女子学生 え? ほんと?なんでまた彼に白羽の矢が立ったわけ? 男子学生 もめてたらしいけど、結局は先生の鶴の一声だって。 女子学生 なるほど、先生、 李さんのこと気に入ってたものねえ。 (二) 学生 班長、だめです。私にはそんな大役は務まりません。 班長 大丈夫よ。何事も案ずるより産むがやすし。やってみなけりゃわからないじゃない。 学生 で、でも僕、石橋を叩いて渡る性格なもので……。 班長 叩くのはいいけど、思い切って渡らなければ前に進まないの!さ、頑張って。 (三) 学生A 李さんは頭がよくて、日本語も得意なんだ。今英会話も習っているんだって。 学生b 英会話もマスターしたら「鬼に金棒」だね。 (四) 学生a いいパソコンを買ってんだけど、うちではだれも使えないんだ。 学生b もったいないね。「宝の持ち腐れ」だね。 (五) 学生a バイトの金が安くて全然貯金ができないんですよ。 学生b 「塵も積もれば山となる」ですよ。毎月百元ずっても貯金したらどうでっすか。 (六) 学生a 大学受験のために一生懸命勉強したけど、入学してから全然勉強しなかった。もうすぐ試験があるから心配だなあ。 学生b 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」だね。ずっと勉強を続けていればよかったのにね。 (七) 女子学生 ねえねえ、班長から会議の記録をまとめてって頼まれたんだけど、 この言葉、どういう意味かわかる?辞書引いてもよくわからないのよ。 男子学生 そんなら班長に聞いたほうが早いよ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だよ。 女子学生 だってもい二回も聞いたのよ。ほら、仏の顔も三度って言うじゃない……。 (八) 学生a 聞いた?張明さん、来月いっぱいで退学だって。 自分で会社起こすらしいぜ。先生、すごくショックを受けてる、灯台下暗しだなあ、だってさ。 学生b へーえ、張明さんってそんな力があるようには見えなかったよなあ。能ある鷹は爪を隠す、だな。 (九) 学生a なんだから、今年のサッカー選手はみんな五十歩百歩で、個性が感じられないな。 学生b ええ、私もそう思います。体力も技術もどの人も同じようで、まさにどんぐりの背比べっていう感じですよねえ。 (十) 女子学生 李さん、この間二人で歩いているところをクラスの張さんに見られてたんです……。 李 え、ほんと?やばいなあ。 女子学生 「やっぱり噂は本当だったのね。火のない所に煙は立たないものね。」って言われちゃいました。 李 気を付けよう。壁に耳あり障子に目ありだからね。 応用文 いろはガルタ 日本のお正月の遊びには、外で遊ぶ「たこあげ」や「羽根つき」「こま回し」、 家の中で遊ぶ「カルタ取り」「福笑い」「すごろく」などがあります。 カルタ取りに使われる「いろはガルタ」にはことわざが使われているので、遊びながら楽しくことわざを覚えることができます。 いろはガルタというのは、「いろは」四十七文字に「京」の字を加えた四十八文字をそれぞれ頭につけて、 昔からのことわざやたとえを書いた読み札と、それを絵札(取り札)とからできているものです。 現在の大阪や京都を中心にできた大阪ガルタと京ガルタ、名古屋を中心にできた尾張ガルタ、東京でできた江戸ガルタがあります。 ことわざは同じものもありますが、少し違うものもあります。例えば、「い」のことわざは次のようです。 江戸ガルタ 犬も歩けば棒に当たる 京ガルタ 一寸先はやみ 尾張ガルタ 一を聞いて十を知る 「いろは」とは今の「あいうえお」やαの「ABC」と同じようなものです。 語るの意味は難しくてよくわからないものもありますが、昔の子供たちは遊びながら、そのまま覚えて言葉や字の練習をしました。 まず、絵札を並べます。 揃えてきれいに並べるやり方とバラバラに散らして並べるやり方があります。 そして、字の書いてある札を読んでもらって絵札を取ります。 一番たくさんの絵札を取った人が勝ちです。 人数は読む人が一人と、絵札を取る人が二人以上六人ぐらいまでが適当です。 カルタ取りの読み手になってことわざを何度も言ってみましょう。 また、取った絵札を見ながらことわざを言ってみたり、読み手の人が頭文字だけ言って他の人がそのことわざを全部言ったり、 読み手が「犬も歩けば」と言ったら、続きの「棒に当たる」と答えてことわざを完成したりするゲームもできます。 それに、カルタ取りを見ているだけでも、ことわざが覚えられます。 一回に一つでも「塵も積もれば山となる」です。 諺が使えるようになれば「鬼に金棒」です。 ことわざは、使い方によって、さまざまの役目を果たしてきました。 第一は、なんといっても、知識を伝える働きです。 村の年寄りは、長い年月の経験によって悟ったことを、若い人々に伝えるために、ことわざによる耳学問の方法をとりました。 今日でもよく耳にする「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉がいい例です。 このような知識は、日常の衣食住の生活に深い関係があるばかりでなく、地方によっては、 「彼岸過ぎてのばかごやし」などと言って、農業を営む上の知恵を授ける大事な目安にもなってきました。 ことわざの第二の働きは、教訓に利用された点です。 年寄りたちは、めいめいの長い生活経験から、この世を生き抜くために、どうすることがいいか、 どうしなければならないのかを悟っていました。 その経験から悟った知恵を、ことわざに託して、若い人たちに示しました。 人のことをうらやましがる者があれば、「人の花は赤い」とか、「他人の飯は白い」とか言って反省させ、 飲みすぎたりして、体を壊すことのないように、「腹も身の内」「腹八合医者いらず」などと教えました。 第三に、それは、会話にユーモアを漂わせ、社会生活を滑らかにする働きを持っています。 「下手の横好きですよ。」と、謙遜して語れば、「いや、好きこそ物の上手なれと言いますから。」と切り返しただけで、 社交は活気づくことでしょうし、人の誤りを注意してやるのにも、「弘法も筆の誤りでしょう。」と言えば、角が立たないで済みます。 また、「団栗の背比べ」とか、「花より団子」とかいうように、 ことわざに自体にユーモアを含んでいるものは、話の中にうまく織り込まれて、会話を生き生きとさせるでしょう。 単語 前もって 注意深い 用心 事に当たる 例える 杖 転ばぬ先の杖 盗人 盗人をとらえて縄をなう 戒める 口拍子 短気 損気 短気は損気 亀の甲 年の功 功 亀の甲より年の功 同音 一時 聞くは一時の恥、 聞かぬは一生の恥 柿 対句 すき腹 短し 襷 音数 小判 猫に小判 目薬 二階から目薬 気が利く 逆説 つられる 急がば回れ 諭す 話し上手 聞き下手 憎まれ口 応える 来学期 白羽の矢が立つ もめる 鶴の一声 大役 務める 案ずるより産むがやすし 石橋を叩いて渡る マスター(master) 鬼に金棒 もったいない 宝の持ち腐れ 塵も積もれば山となる 喉元過ぎれば熱さを忘れる 仏の顔も三度 退学 ショック(shock) 灯台下暗し 能ある鷹は爪を隠す 五十歩百歩 団栗 背比べ 団栗の背比べ やばい 日のないところに煙は立たない 壁に耳あり 障子 いろはガルタ 凧揚げ 羽根つき こま回し カルタ取り 福笑い 双六 尾張 犬も歩けば棒に当たる 一寸先はたみ 一を聞いて十を知る アルファベット(alphabet) バラバラ(と) 人数 頭文字 果たす 年月 耳学問 彼岸 ばかごやし 営む 授ける 目安 教訓 銘々 この世 託す 羨ましい 飯 反省 腹 身の内 八分目 漂う 滑らか 横好き 下手の横好き 好きこそ物の上手なれ 切り返す 社交 活気づく 弘法 筆 誤り 弘法も筆の誤り 角が立つ 団子 生き生き(と/する)