いつもは昼でも暗いこの路地の塀を 今日はめずらしく夕日が真っ赤に染めた 雨風に吹きさらされてすっかり錆付いた 階段の手摺の先に蜻蛉がとまってる 二階の奥の部屋の窓枠には 誰かが置いていった鉢がひとつ 今はもう誰もいない小さなアパート いつ頃からかまるで日の当たらなくなった 小さな庭に枯れかけた銀杏の木が 名前のかすれた郵便ポストは どこから舞い込んだ落ち葉ひとつ 明日の朝このアパートは取り壊される