宵にさらされて 浮かぶなだらかな坂を 静かに見送る 老いた背中に そっと手を添えて 行方さし示す影は かすかな 送り火揺らす 幻 せめて 冷めた頬に 紅をさして欲しいのです 幾瀬過ぎました 咎の長き別れ路に 乾いたくちびる 声にならない 春に色づいた 夏のまばゆい光を 添わせた 確かな日々が 愛しい 閉じた 瞼こぼれる 最後の引き潮の涙よ 船はすべり行く 遥か七色の雨が 迎える岸辺 あふれるやすらぎ 秋に黄昏れて 冬の訪れるとともに 再び 黄泉がえる日の 旅たち せめて 冷めた頬に 紅をさして欲しいのです 閉じた 瞼こぼれる 最後の引き潮の涙よ