不動尊よ 我に力与え給(たま)へば いざ大蛇、酒呑童子(しゅてんどうじ)も此の庭の碁石に変えてお見せしませう 都は地獄の如く狂乱の鬼が巣喰う 秩序が業火(ごうか)と共に堕つのを見ているだけか 太古の巡りに倣(なら)い 我は鬼女(おにめ)を討つ 極彩色を浮かべた京の都に 其方(そなた)の影はついぞ掻き消えた されど胸の内、映し出した此の文(ふみ)が 消えぬ限り必ずや仇(あだ)討ちして参(まい)る故(ゆえ) 夢見の悪い明け方の紫の雨 露(つゆ)と光る曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が燃へる山道 獣の瞳 俗世(ぞくせ)を断ち山中に身委ねし老師より 授かりし兜と毒酒携へていざ行かん 「お待ちくだされ」とぽつり 言の葉ひとつ浮かぶ 咲き乱れし物の怪(け)の宴の夜に 渇いた陵辱の風、響き渡る あなや… さりとて引く訳には行きますまいと 毒を盃(さかずき)に注ぐ 其方がまだ人の子のように笑っていた頃が走馬灯のように もう心根(こころね)通わせていた二人には戻れない故… 極彩色を浮かべた京の都に 其方の影はついぞ掻き消えた さりとて真(まこと)の実を喰い尽くした心を 消さぬ限り必ずや「仇討ち」して参る故 今しばし