[ti:] [ar:] [al:] [00:-0.32]それから、二年もの歳月が流れた。 [00:05.41]仕事に没頭する毎日と趣味に興じる生活スタイルの中で、 [00:11.48]少しずつ心の傷も癒え、平穏な日々を送っていた。 [00:18.78]時々彼女のことを思い出す。 [00:22.45]ぼくよりもっと素敵な恋人を見つけて、幸せになっていてほしい。 [00:29.02]心底そう思う。 [00:32.45]恋愛に関しては、ぼくは本当に駄目な人間だから。 [00:40.28]社内で後輩の女の子から告白を受けたことがある。 [00:46.34]なにかにつけぼくに気を使ってくれる。 [00:49.08]とても性格のいい子で、異性としても決して嫌いなタイプじゃなかったが、 [00:57.05]ぼくは申し訳なさそうに頭を下げるしかなかった。 [01:03.40]ごめんね、ぼくは恋愛する資格のない人間なんだ。 [01:10.25]後輩はえっと言ったきり、もじもじしながらずっと下を向いていた。 [01:19.93]断りの言葉にしては意味不明に思われてるに違いない。 [01:25.78]しかし、今のぼくには他に適当な言葉がなかった。 [01:33.15]困ったぼくは、思いついたように言った。 [01:37.98]そうだ、ぼくなんかよりずっといいやつが社内にいるじゃないか。 [01:42.61]今度紹介してあげるから。 [01:46.65]運良く上司からの呼び出しを受けて、ぼくは体よくその場を離れた。 [01:53.17]後輩の女の子が俯いたまま立っている姿を尻目に、ぼくは足早に立ち去った。 [02:02.05]これでいい、ぼくに恋愛感情を持ってくれるのは有難いが、 [02:08.64]今のぼくにはそれを受け入れる自信がまったくない。 [02:15.31]だからこれでいいんだ。 [02:19.84]そう自分に言い聞かせたが、 [02:22.82]逃げ場をいつも求めている臆病な自分にちょっと苦笑いした。