鳥の声で目が覚めた。 はっとして周りを見渡すと、そこは自分の部屋だった。 いつの間に。。帰ってきたんだろう。 ボーとした頭で考えていると、 「大丈夫ですか」 という女性の声が聞こえて驚いた。 声のする方に頭を持ち上げると、 会社の後輩の女の子がエプロン姿で立っていて、二度驚いた。 彼女はぼくのそばに腰を下ろすと、これまでのいきさつを語ってくれた。 ぼくが会社を無断欠勤したこと、何度連絡を入れても電話に出ないこと、 心配になって上司に相談し、自宅まで様子を見に来たこと、 部屋の鍵はあいたままで、中でぼくが倒れていたこと、 びっくりして救急車を呼び、病院に運んだこと、 一昼夜点滴を受け、昨晩家にタクシーで連れ帰ってきたこと。 「そうなのか。。」 するとぼくは二日間も意識がなかったことになる。 一昨日の晩、家を飛び出したことや、 少女に出会ったことも、夢にすぎなかったのか。 そんなことを考えていたら、 彼女のすみませんという声が聞こえた。 「えっ?」ぼくが不思議そうな顔をすると、 彼女は少し恐縮した面持ちで、 病院に行く時に替えの下着を持ち出したことや、 戻ってきてからも、勝手に掃除や洗濯をしていたことについてぼくに謝った。 「そんなこと。。むしろ、ぼくの命の恩人じゃないか。」 そう言ってあげると、彼女も安心した顔になり、よかったと顔を綻ばせた。 そして、ちょっと持っててくださいと言って台所に立つと、 おかいとつきあわせを運んできた。 ぼくが寝ている間に用意したらしい。 「あ、ありがとう。。」 考えてみたら、彼女はこの二日間ぼくにつきっきりだったわけで、 それだけでも十分大変だったろうと思う。 碌に寝てないに違いない。 感謝の気持ちでいっぱいになった。 後片付けを済ませると、彼女は、これから出社しますけど、 お昼の分も用意してありますので、レンチで温めて、 「ちゃんと食べてくださいね」、と言って帰り支度を始めた。 「帰りには、夕飯の支度をしに、また寄っていいですか」、とぼくに聞いた。 「あっ。。うん。。頼んでもいいのかな。」 彼女は、「はい」、と元気な返事をして出ていった。 本当にいい子だと思った。 お昼になって、用意してもらった昼食を食べてから、 ちょっと散歩してこようという気になった。 体の調子ももう大分いい。少し外の空気にあたりたくなった。 しばらく歩いてから、近くの公園のベンチに腰掛け、ボーと空を見上げた。 よく晴れ渡ったいい天気だった。 これまでのことを少し考えてみる。 あの晩、彼女に電話を掛けたことは果たしてよかったのだろうか。 それ以前に、ぼくたちの関係はもう終わっていることはわかっていたはずだ。 でも、病気で苦しんでる中、もしかしたらという淡い期待があっても当然じゃないか。 彼女が来てくれさえすれば、きっとぼくたちは、やり直せたと思う。 いや、そう考えるのは止そう。 それでは彼女を責めることになる。 そこまで彼女を追い込んだのは、きっとぼくなのだから。 やっぱり、ぼくは恋愛には向いてないのかもしれない。 二度経験すれば自ずとわかる。 もう誰かを愛することはやめよう。 傷つき、傷つけあう関係はこれでお仕舞いにしよう。 もう大分疲れてしまった。 それでも、彼女たちには幸せになってほしいと思う。 この先不幸な人生を歩もうなら、その責任の一端は、ぼくにあることになるかもしれない。 それだけは、なってほしくない。