[00:00.30]ぼくは割れたコップを片付けてから、ゆっくりとソファーに腰掛けた。 [00:05.76]すると、テーブルの上のある白い封筒が目に止まった。 [00:13.94]さっき帰ってきた時に、ポストから取り出した郵便物に混じっていたものだ。 [00:21.22]気になって手に取ると、表書きに請求書と書かれてある。 [00:28.76]差出人は不思議工房となっていた。 [00:34.91]不思議工房。。? [00:38.29]はっとして封を切り、中身を取り出すと、そこには次のような文言を記した紙が一枚入っていた。 [00:48.82]あなたの幸せをお届けします。 [00:52.56]愛することを信じなさい、愛されることに素直になりなさい。 [00:58.87]そして、愛を見つけたら分かち合いなさい。 [01:04.83]それを生涯に渡る代償としてご請求申し上げます。 [01:10.99]不思議工房。 [01:16.01]ふいにあの少女の姿を思い浮かんだ。 [01:20.73]お代は後払いの成功報酬ね、と言った言葉も思い出す。 [01:29.66]あれは。。夢じゃなかったのか。。 [01:36.87]呆然としていると、ピンポンとドアベルの音が鳴った。 [01:42.89]慌てて出ると、そこには後輩の彼女の姿があった。 [01:50.01]「また来ちゃいました。」と言って俯き加減にもじもじしている。 [01:57.88]手にはスーパーの袋を抱えている。 [02:01.92]夕飯の支度に来てくれたのはすぐにわかった。 [02:06.90]「あ、ああ、よく来てくれたね。 [02:11.83]ごめんね、ぼくのために何度も足を運ばせて。。」 [02:17.69]後輩は、「いえ、いいんです、わたしが勝手にしていることだから、気にしないでください。」 [02:26.22]と顔を赤らめながら言った。 [02:30.88]ぼくはふっと笑みを零した。 [02:34.85]「うん、じゃ、お願いします。」 [02:39.65]後輩は、今度ははいと元気よく返事して、お邪魔しますと頭を下げた。 [02:48.10]彼女を招きいれ、ソファーに座って、彼女の夕飯の支度をする後ろ姿を見ながら、ふと考えた。 [02:59.87]もう一度愛することを一から始めよう。 [03:06.12]結果を気にすることより、もっと自分に素直になろう。 [03:13.06]本当の意味でお互いを必要とする関係をゆっくりと築いていこう。 [03:19.52]あの老夫婦のように。 [03:24.74]ふいに後輩の彼女が振り返って言った。 [03:28.85]「先輩、あまり無理しないでくださいね。」と。 [03:35.77]「うん、これからはそうするよ。」 [03:41.89]自分でも驚くほど素直な声だった。