ぼくは割れたコップを片付けてから、ゆっくりとソファーに腰掛けた。 すると、テーブルの上のある白い封筒が目に止まった。 さっき帰ってきた時に、ポストから取り出した郵便物に混じっていたものだ。 気になって手に取ると、表書きに請求書と書かれてある。 差出人は不思議工房となっていた。 不思議工房。。? はっとして封を切り、中身を取り出すと、そこには次のような文言を記した紙が一枚入っていた。 あなたの幸せをお届けします。 愛することを信じなさい、愛されることに素直になりなさい。 そして、愛を見つけたら分かち合いなさい。 それを生涯に渡る代償としてご請求申し上げます。 不思議工房。 ふいにあの少女の姿を思い浮かんだ。 お代は後払いの成功報酬ね、と言った言葉も思い出す。 あれは。。夢じゃなかったのか。。 呆然としていると、ピンポンとドアベルの音が鳴った。 慌てて出ると、そこには後輩の彼女の姿があった。 「また来ちゃいました。」と言って俯き加減にもじもじしている。 手にはスーパーの袋を抱えている。 夕飯の支度に来てくれたのはすぐにわかった。 「あ、ああ、よく来てくれたね。 ごめんね、ぼくのために何度も足を運ばせて。。」 後輩は、「いえ、いいんです、わたしが勝手にしていることだから、気にしないでください。」 と顔を赤らめながら言った。 ぼくはふっと笑みを零した。 「うん、じゃ、お願いします。」 後輩は、今度ははいと元気よく返事して、お邪魔しますと頭を下げた。 彼女を招きいれ、ソファーに座って、彼女の夕飯の支度をする後ろ姿を見ながら、ふと考えた。 もう一度愛することを一から始めよう。 結果を気にすることより、もっと自分に素直になろう。 本当の意味でお互いを必要とする関係をゆっくりと築いていこう。 あの老夫婦のように。 ふいに後輩の彼女が振り返って言った。 「先輩、あまり無理しないでくださいね。」と。 「うん、これからはそうするよ。」 自分でも驚くほど素直な声だった。