西の空に風船が 窓拭きも止めにした 昼のサイレンが鳴り 通り低く鳩が飛ぶ 花瓶の花束は萎れ 泣き止んだ 出前の蕎麦はやけに延びて 煤けたヤカンが唸るやり切れぬ ああ、笑えと肩小突き 飴色の櫛を抜く 書き始めたノベルに 百合と涙を添える 猿山の上で蚤かき 彼の御方 火照る肌埃の舞う中 リンゴの芯を投げつけてくれる レンガ通りをゆけば彼方で太古の音色が うつろに鳴り響く 嫌な夢か 山間に赤い月が 溶けている 頬紅の君肩を抱いて 小道を逸れタデの葉をちぎった