『衝動の儘に、深い考えもない儘に 家を飛び出したミリリは、 激しい疲労と空腹に襲われながら それでも足を前へ前へと動かし続けていた。 雨にうたれ、磨り減っていく心に、 それでも目的だけは見失わないように。 薄汚れた格好の少女に、 声をかける者はいない』 「ふふっ、あたし、バカみたいだ────」 緩やかな明滅にセカイは廻って 少女の視界はいつか ブラックアウトを繰り返した 朽廃ディテールは嘘 絡む腳笑って笑っ 不恰好なダンスに黒猫が欠伸する 虚構の羽はいらない それは物語を生まない 不明確な少女の 軌道は儚くも空を蹴った 意識の葬列に終止符が穿たれて 嗚呼、倒れる手折られる 刹那救い上げた腕は 幻想か現か不明瞭で──── 『倒れかけた少女を支えたのは、黒衣を纏った放浪者。 無言で手渡されたパンに、少女は飛びつく』 「あ、あれがと。貴方は……?」 ぼやけていたセカイが息を吹き返し 箒星は流れてく 言い尽くせない願い乗せて 猫の楽団は空想 置き場所を探して探して 蓄積した音に無意識に依存した 感情のない喝采 いつか物語を壊す 囃し立てる 散々耳元で鳴っていた言葉 それは終わりへ向けられた その誘うような声音 足を止めて止められて 正気を取り戻す少女 音はもう掻き消えていた──── 「あ、あたしの顔に何かついてますか?」 『汚れているのだろうか、 と不安に襲われた少女が口元をゴシゴシと擦っていると彼は微笑み、 自分の探している女の子のことを思い出したのだと優しく語る。 年の頃も同じで、思わず手を差し伸べてしまったのだと。 多くは語らなかったけれど、 人として誤った道を選んでしまったらしいその子を止めようと 旅をしていることはわかった』 鮮やかな感情に呼吸を整えて 虚構の羽はいらない それは物語を生まない 羽はなくとも 少女の足取りはその意思を取り戻した 飛ぶようにだなんて言えないけれど確かに 嗚呼、噛み締めて踏みしめて 著実にその地を蹴る 少女のいるべき方角へ──── 「キミの旅の終着点はどこ?決して道を間違ってはいけない。戻れなくなるなら」 『ぶっきらぼうに、けれど誠実に語る彼に少女は頷き、再び歩きはじめる。 二人の目指す場所が同一であることには、最後まで気付かないままに』 「もうすぐ行くから……だから。生きて────待ってて」