その日わたしは音楽の中にいたから あなたのいるところまで駆け出してゆけた その日わたしは絵筆の先の方にいたから 汚れた下着を洗うナイチンゲールの 帰る家の灯りを点すことができた その日わたしは本の片隅にいたから 言葉の刃に赤い血をつけても 小さく切り刻むのは茹で卵だった その日わたしはフイルムの中にいたから 嘘も本当も同じ顔して写り お互いのことをよく知っているとわかっていた その日わたしは映画の一コマにいたから あなたがぶたれたとき痛いのはわたしじゃなくて わたしには「見ていた」という役があると知った その日わたしは愛について考えたから 自分をやめようと 棄ててしまおうと思っても 自分を嫌いにだけはならなかった その日わたしは音楽の中にいたから あしたともきのうとも手をつなぎながら ここにいるよと謳われていた その日わたしは その日わたしは なくても生きていけるものに 生かされていた