「妖花ト夢現」 「月夜に手を取り此処から逃げ出しましょう 故郷に捨てられても貴方の眼に映るのは誰?」 濡れた畦道を行く懐かしい影を追い 永久へと誘う まほろばを望むなら 霞にぼやけた薄紅の(あやかしの) 花びらが(口づけが)降り注ぐ 夢に現に 永別れた人の聲を聴く (逆さに吹く風の中で) 「叶わぬ願いが蔓延る世界ならば 継ぎ接ぎだらけでいい…飽きるまでは語らいましょう」 (帰り道を忘れぬように) 私の迷いは黄昏に消えていく 移絡め取られた運命に(あやかしの) 呑み込まれ(蜘蛛の毒) 結ばれた過去と明日が 心を今この地に縛るから 揺らめいた篝火に照らされた向こう側 焦げ付いた影が近付く足音 戻らない刻が 喪った人が 手招きする “此処へおいで――” 化けの皮が剥がれてしまえば 永久へと誘う 幻は砕け散る 霞が晴れたら紅の(美しく) 椿(カメリア)が(鮮やかに)咲き誇る 目覚めた場所で解いた糸を手繰り (貴方は)貴方は また誰かを 寂しさから救うでしょう だから今は夢に現に さよならを呟いただけ (涙攫う風も止んで)