[ti:] [ar:] [al:] [offset:0] [00:00.00]王子さまは [00:02.18]小惑星325、326、327、328、 [00:09.51]329、330の近くを通りかかった。 [00:16.04]そこで、仕事を探したり、 [00:18.69]見聞を広げるため、 [00:20.71]それらの小惑星を一つずつ訪ねることにした。 [00:25.80]最初の星には王様が住んでいた。 [00:30.87]緋色の衣に白点の毛皮(けがわ)を纏い、 [00:35.43]質素だが [00:36.61]威厳のある玉座(ぎょくざ)に腰掛けていた。 [00:41.26]王様は自分の権威に執着する [00:44.14]絶対君主であるばかりか、 [00:46.81]自分の星も、他の惑星も恒星(こうせい)も、 [00:51.00]全てを支配する宇宙の君主だった。 [00:56.20]しかし王子さまが夕日を見たいので、 [00:59.36]太陽に沈めと命令してほしいとお願いしても、 [01:03.84]「権威はまず道理に基づく」などと、 [01:07.59]理屈や例え話ではぐらかすばかりで、 [01:10.46]何もしなかった。 [01:13.81]夕日を見ることも出来ず、 [01:15.81]退屈してきた王子さまが暇を告げると、 [01:19.19]王様は王子さまを法務大臣に任命して、 [01:23.26]ここに留まらせようとした。 [01:26.92]しかし王子さまは [01:28.60]大臣の職を丁重(ていちょう)に断って、 [01:31.52]結局、この星を後にした。 [01:36.29]溜息をつきながら去っていく王子さまに、 [01:39.33]王様は急いで叫んだ。 [01:43.30]「汝を吾が大使に任命する。」 [01:47.22]王様は威厳を漂わせていた。 [01:52.56]「大人って、本当に奇妙だな。」 [01:57.51]王子さまは旅を続けながら、そう思った。 [02:04.45]二番目の星には、自惚れ男が住んでいた。 [02:09.39]自惚れ男にとって、 [02:11.32]他人はみな、自分のファンなのだ。 [02:16.21]変な帽子を被っているのは [02:18.45]ファンの喝采に答えて挨拶をするため。 [02:22.47]王子さまの拍手に、 [02:24.33]自惚れ男が帽子を持ち上げ、 [02:26.65]恭(うやうや)しくお辞儀をした。 [02:30.35]王様のところよりは楽しかったが、 [02:33.18]五分も繰り返したら、飽きてきた。 [02:37.45]「その帽子を落とすには、 [02:39.67]どうすればいいの?」 [02:42.05]王子さまは聞いてみた。 [02:44.66]しかし、褒め言葉しか聞こえない自惚れ男には、 [02:48.94]質問も全く聞こえない。 [02:52.17]ひたすら「私を崇拝(すうはい)しているかい」と、 [02:56.73]聞いてくるばかりだった。 [03:00.01]王子さまはちょっと肩を竦めながらこう言った。 [03:05.38]「崇拝しているよ。 [03:07.54]でも、なぜそんなことに拘るの?」 [03:12.13]王子さまはその星から立ち去った。 [03:17.24]「大人って、やっぱり本当に奇妙だな。」 [03:22.15]王子さまは旅を続けながら、そう思った。 [03:29.98]次の星には、大酒飲みが住んでいた。 [03:34.76]ほんの短い訪問だったが、 [03:37.55]王子さまは酷く落ち込んでしまった。 [03:41.61]「何をしているの?」 [03:43.86]「酒を飲んでいる。」 [03:46.02]「なぜ飲んでいるの?」 [03:48.33]「忘れるため。」 [03:51.53]王子さまはこの男が可哀相になってきた。 [03:56.31]「何を忘れるため?」 [03:58.84]「恥を忘れるためさ。」 [04:02.76]王子さまはこの男を救ってあげたいと思った。 [04:07.94]「何が恥なの?」 [04:10.60]「酒を飲むことが。」 [04:14.77]そう言い終ると、大酒飲みは沈黙し、 [04:19.28]二度と口を開かなかった。 [04:23.82]王子さまは当惑(とうわく)して、 [04:26.50]そこから立ち去った。 [04:30.36]「大人って、やっぱり本当に本当に奇妙だな。」 [04:36.63]王子さまは旅を続けながら、そう思った。 [04:43.57]四番目は実業家の星だった。 [04:48.33]実業家は [04:49.63]五億百六十二万二千七百三十一個の星を [04:53.30]所有していた。 [04:56.39]王子さまが会った王様は [04:58.42]星を支配してはいたが、 [05:00.33]所有してはいなかった。 [05:02.84]これは大きな違いらしい。 [05:07.18]星を所有すると、金持ちになれる。 [05:11.02]金持ちになると、 [05:12.61]誰かが他の星を見つけた時、 [05:15.04]それを買える。 [05:18.15]どうすれば星を所有できるか、 [05:20.79]誰よりも先にそれを思いつくことだ。 [05:25.11]実業家より先に、 [05:26.78]星を所有しようと思いついた者は [05:29.04]誰もいなかった。 [05:32.36]実業家は所有する星を管理する。 [05:36.50]数えて数え直して、銀行に預ける。 [05:41.06]つまり、星の数を紙切れに書き、 [05:44.63]引き出しにしまい、鍵を掛けるのだ。 [05:48.89]「それでおしまい?」 [05:51.47]「それで十分。」 [05:54.74]「僕は花を持っていて、 [05:56.97]毎日水をあげていたよ。 [06:00.30]三つの火山を持っていて、 [06:02.56]毎週煤払い(すすはらい)を欠かさなかったよ。 [06:06.70]用心に越したことはないから、 [06:08.93]死火山もちゃんと掃除していた。 [06:12.70]僕が持っていることが [06:14.74]火山にも花にも役に立っていた。 [06:17.98]でも、貴方は [06:20.42]ちっとも星の役に立っていないね。」 [06:24.59]実業家は口を開けたが、 [06:26.89]返す言葉が見つからなかった。 [06:31.22]王子さまはそこから立ち去った。 [06:35.89]「大人って、全く本当にとんでもないな。」 [06:41.01]王子さまは旅を続けながら、そう思った。 [06:47.88]五番目の星はとても変わっていた。 [06:51.82]一番小さな星だった。 [06:57.01]一本の街灯と [06:58.84]それに明かりを点す点灯人だけで [07:01.41]いっぱいだった。 [07:04.62]無人の星で、 [07:06.09]街灯と点灯人が [07:08.67]何の役に立つのか分からなかったけれど、 [07:12.13]それでも王子さまは [07:13.89]点灯人の仕事には意味があると考えた。 [07:19.80]「あの人が明かりを点すと、 [07:22.10]星や花がもう一つ生まれ出るみたいだ。 [07:26.57]とても素敵な仕事だ。 [07:28.95]それはつまり、役に立つ仕事ということだ。」 [07:34.39]しかし、点灯人は [07:37.04]赤いチェックのハンカチで額を拭い、 [07:39.98]こう言った。 [07:42.91]「酷い仕事さ。 [07:45.09]しかもどんどん酷くなっている。」 [07:49.06]点灯人は朝になると街灯を消して、 [07:52.89]夜には点す支持を受けていた。 [07:56.51]しかし、 [07:57.85]星の自転が年々速くなっていったのに、 [08:01.34]指示は変わらない。 [08:04.56]今では、この星は一分で一回回るから、 [08:08.63]休む暇もなくなった。 [08:12.31]一分ごとに街灯を [08:14.02]点したり消したりしているのだ。 [08:17.60]「面白いね。この星は一日が一分なんだ。」 [08:23.50]「面白いもんか。 [08:25.95]俺たちが話し始めて、もう一ヶ月経つんだぞ。」 [08:30.94]「一ヶ月?」 [08:32.45]「そうだ。三十分。つまり、三十日だ。」 [08:38.74]王子さまは、 [08:40.16]こんなにも指示に忠実な点灯人が [08:43.11]好きになった。 [08:46.07]そして、旅を続けながら考えた。 [08:51.24]「あの人は、 [08:52.57]他の大人たちには [08:54.03]軽蔑されるかもしれないけど、 [08:56.64]僕にはただ一人まともに見えた大人だったな。 [09:01.30]きっと、 [09:02.47]自分以外の物を世話しているからだろうな。 [09:06.33]友達になれそうだけど、 [09:08.53]あの小さな星に二人は住めないし。」 [09:13.72]王子さまは認めたがらないが、 [09:15.89]残念がっている理由は他にあった。 [09:19.94]あの星は、二十四時間に、 [09:23.19]千四百四十回の夕日に恵まれているのだ。 [09:31.39]六番目の星は前の星より十倍大きかった。 [09:36.95]そこには、 [09:38.23]分厚(ぶあつ)くて大きな本を書く [09:40.67]老紳士が住んでいた。 [09:43.98]王子さまを見かけると、 [09:46.62]「おや、探検家がやって来た。」と、 [09:50.67]大声で言った。 [09:53.23]王子さまは机に腰掛け、 [09:55.56]息をついた。 [09:57.91]ずいぶん旅をしてきたものだ。 [10:01.81]老紳士は地理学者で、 [10:04.43]海や川や町、山や砂漠がどこにあるかを [10:08.50]よく知っていた。 [10:10.79]しかし、探検家ではないので、 [10:13.92]ぶらぶら出歩かない。 [10:16.92]ずっと研究室にいて、 [10:19.22]探険家が来たら話を書き留め、 [10:22.11]信用できると分かったら、 [10:24.17]その発見について調査を始めるのだ。 [10:28.88]「遠くから来たなら君も探険家だ。 [10:32.51]君の星について話してくれ。」 [10:36.10]「僕の星はあまり面白くありません。 [10:39.86]とても小さいんです。火山が三つあります。 [10:44.77]活火山二つに死火山一つ。 [10:48.41]花も咲いています。」 [10:51.15]「我々は花のことは記録しないよ。」 [10:55.25]「なぜですか。一番綺麗なのに。」 [10:59.37]「花は儚いからだ。」 [11:03.45]地理の本は [11:04.79]あらゆる本の中でもっとも確かな物だ。 [11:08.54]決して古くなることはない。 [11:11.69]山はめったに動かないし、 [11:14.21]海はめったに干上(ひあ)がらない。 [11:17.19]我々は永久不変な物だけを書き記す。 [11:23.45]「でも、儚いって、どういう意味?」 [11:27.92]「すぐに消えてなくなる恐れがある、 [11:31.40]ということだ。」 [11:33.39]「僕の花も [11:34.82]すぐに消えてなくなるかもしれないの?」 [11:37.70]「もちろんだ。」 [11:40.59]「僕の花は儚い。 [11:43.28]世界から身を守るために [11:46.07]四本の刺しか持っていない。 [11:49.93]それなのに僕は、 [11:52.17]花をたった一人きりで残してきてしまった。」 [11:57.15]この時初めて、 [11:59.19]王子さまは刺すような後悔の念に襲われた。 [12:05.16]しかし、気持ちを切り替えて、こう聞いた。 [12:11.40]「これから、どこを訪ねたらいいでしょう。」 [12:16.10]「地球という惑星にしなさい。 [12:20.09]なかなか評判がいいよ。」 [12:24.36]そこで、王子さまは旅立った、 [12:29.05]花のことを思いながら。