王子さまは 小惑星325、326、327、328、 329、330の近くを通りかかった。 そこで、仕事を探したり、 見聞を広げるため、 それらの小惑星を一つずつ訪ねることにした。 最初の星には王様が住んでいた。 緋色の衣に白点の毛皮(けがわ)を纏い、 質素だが 威厳のある玉座(ぎょくざ)に腰掛けていた。 王様は自分の権威に執着する 絶対君主であるばかりか、 自分の星も、他の惑星も恒星(こうせい)も、 全てを支配する宇宙の君主だった。 しかし王子さまが夕日を見たいので、 太陽に沈めと命令してほしいとお願いしても、 「権威はまず道理に基づく」などと、 理屈や例え話ではぐらかすばかりで、 何もしなかった。 夕日を見ることも出来ず、 退屈してきた王子さまが暇を告げると、 王様は王子さまを法務大臣に任命して、 ここに留まらせようとした。 しかし王子さまは 大臣の職を丁重(ていちょう)に断って、 結局、この星を後にした。 溜息をつきながら去っていく王子さまに、 王様は急いで叫んだ。 「汝を吾が大使に任命する。」 王様は威厳を漂わせていた。 「大人って、本当に奇妙だな。」 王子さまは旅を続けながら、そう思った。 二番目の星には、自惚れ男が住んでいた。 自惚れ男にとって、 他人はみな、自分のファンなのだ。 変な帽子を被っているのは ファンの喝采に答えて挨拶をするため。 王子さまの拍手に、 自惚れ男が帽子を持ち上げ、 恭(うやうや)しくお辞儀をした。 王様のところよりは楽しかったが、 五分も繰り返したら、飽きてきた。 「その帽子を落とすには、 どうすればいいの?」 王子さまは聞いてみた。 しかし、褒め言葉しか聞こえない自惚れ男には、 質問も全く聞こえない。 ひたすら「私を崇拝(すうはい)しているかい」と、 聞いてくるばかりだった。 王子さまはちょっと肩を竦めながらこう言った。 「崇拝しているよ。 でも、なぜそんなことに拘るの?」 王子さまはその星から立ち去った。 「大人って、やっぱり本当に奇妙だな。」 王子さまは旅を続けながら、そう思った。 次の星には、大酒飲みが住んでいた。 ほんの短い訪問だったが、 王子さまは酷く落ち込んでしまった。 「何をしているの?」 「酒を飲んでいる。」 「なぜ飲んでいるの?」 「忘れるため。」 王子さまはこの男が可哀相になってきた。 「何を忘れるため?」 「恥を忘れるためさ。」 王子さまはこの男を救ってあげたいと思った。 「何が恥なの?」 「酒を飲むことが。」 そう言い終ると、大酒飲みは沈黙し、 二度と口を開かなかった。 王子さまは当惑(とうわく)して、 そこから立ち去った。 「大人って、やっぱり本当に本当に奇妙だな。」 王子さまは旅を続けながら、そう思った。 四番目は実業家の星だった。 実業家は 五億百六十二万二千七百三十一個の星を 所有していた。 王子さまが会った王様は 星を支配してはいたが、 所有してはいなかった。 これは大きな違いらしい。 星を所有すると、金持ちになれる。 金持ちになると、 誰かが他の星を見つけた時、 それを買える。 どうすれば星を所有できるか、 誰よりも先にそれを思いつくことだ。 実業家より先に、 星を所有しようと思いついた者は 誰もいなかった。 実業家は所有する星を管理する。 数えて数え直して、銀行に預ける。 つまり、星の数を紙切れに書き、 引き出しにしまい、鍵を掛けるのだ。 「それでおしまい?」 「それで十分。」 「僕は花を持っていて、 毎日水をあげていたよ。 三つの火山を持っていて、 毎週煤払い(すすはらい)を欠かさなかったよ。 用心に越したことはないから、 死火山もちゃんと掃除していた。 僕が持っていることが 火山にも花にも役に立っていた。 でも、貴方は ちっとも星の役に立っていないね。」 実業家は口を開けたが、 返す言葉が見つからなかった。 王子さまはそこから立ち去った。 「大人って、全く本当にとんでもないな。」 王子さまは旅を続けながら、そう思った。 五番目の星はとても変わっていた。 一番小さな星だった。 一本の街灯と それに明かりを点す点灯人だけで いっぱいだった。 無人の星で、 街灯と点灯人が 何の役に立つのか分からなかったけれど、 それでも王子さまは 点灯人の仕事には意味があると考えた。 「あの人が明かりを点すと、 星や花がもう一つ生まれ出るみたいだ。 とても素敵な仕事だ。 それはつまり、役に立つ仕事ということだ。」 しかし、点灯人は 赤いチェックのハンカチで額を拭い、 こう言った。 「酷い仕事さ。 しかもどんどん酷くなっている。」 点灯人は朝になると街灯を消して、 夜には点す支持を受けていた。 しかし、 星の自転が年々速くなっていったのに、 指示は変わらない。 今では、この星は一分で一回回るから、 休む暇もなくなった。 一分ごとに街灯を 点したり消したりしているのだ。 「面白いね。この星は一日が一分なんだ。」 「面白いもんか。 俺たちが話し始めて、もう一ヶ月経つんだぞ。」 「一ヶ月?」 「そうだ。三十分。つまり、三十日だ。」 王子さまは、 こんなにも指示に忠実な点灯人が 好きになった。 そして、旅を続けながら考えた。 「あの人は、 他の大人たちには 軽蔑されるかもしれないけど、 僕にはただ一人まともに見えた大人だったな。 きっと、 自分以外の物を世話しているからだろうな。 友達になれそうだけど、 あの小さな星に二人は住めないし。」 王子さまは認めたがらないが、 残念がっている理由は他にあった。 あの星は、二十四時間に、 千四百四十回の夕日に恵まれているのだ。 六番目の星は前の星より十倍大きかった。 そこには、 分厚(ぶあつ)くて大きな本を書く 老紳士が住んでいた。 王子さまを見かけると、 「おや、探検家がやって来た。」と、 大声で言った。 王子さまは机に腰掛け、 息をついた。 ずいぶん旅をしてきたものだ。 老紳士は地理学者で、 海や川や町、山や砂漠がどこにあるかを よく知っていた。 しかし、探検家ではないので、 ぶらぶら出歩かない。 ずっと研究室にいて、 探険家が来たら話を書き留め、 信用できると分かったら、 その発見について調査を始めるのだ。 「遠くから来たなら君も探険家だ。 君の星について話してくれ。」 「僕の星はあまり面白くありません。 とても小さいんです。火山が三つあります。 活火山二つに死火山一つ。 花も咲いています。」 「我々は花のことは記録しないよ。」 「なぜですか。一番綺麗なのに。」 「花は儚いからだ。」 地理の本は あらゆる本の中でもっとも確かな物だ。 決して古くなることはない。 山はめったに動かないし、 海はめったに干上(ひあ)がらない。 我々は永久不変な物だけを書き記す。 「でも、儚いって、どういう意味?」 「すぐに消えてなくなる恐れがある、 ということだ。」 「僕の花も すぐに消えてなくなるかもしれないの?」 「もちろんだ。」 「僕の花は儚い。 世界から身を守るために 四本の刺しか持っていない。 それなのに僕は、 花をたった一人きりで残してきてしまった。」 この時初めて、 王子さまは刺すような後悔の念に襲われた。 しかし、気持ちを切り替えて、こう聞いた。 「これから、どこを訪ねたらいいでしょう。」 「地球という惑星にしなさい。 なかなか評判がいいよ。」 そこで、王子さまは旅立った、 花のことを思いながら。