[ti:] [ar:] [al:] [offset:0] [00:00.00]狐が現れたのはその時だった。 [00:04.97]「こんにちは。」 [00:06.60]「こんにちは。」 [00:08.78]王子さまは丁寧に答えたが、 [00:11.65]振り返っても誰もいなかった。 [00:15.38]「ここだよ。リンゴの木の下さ。」 [00:18.55]「君は誰?とっても可愛いね。」 [00:22.86]「僕、狐だよ。」 [00:25.93]「一緒に遊ぼう。 [00:27.70]僕、今とっても悲しいんだ。」 [00:31.92]「君とは遊べない。 [00:34.03]飼い慣らされていないから。」 [00:36.83]「ああ、ごめんね。 [00:38.62]でも、飼い慣らすって、 [00:41.29]どういう意味?」 [00:43.16]「君はこの辺の人じゃないね。 [00:46.33]何を探しているんだい?」 [00:48.51]「人間だよ。 [00:50.35]ねえ、飼い慣らすって、どういう意味?」 [00:54.85]「人間は銃を持っていて狩をする。 [00:58.11]全く困ったものだ。 [01:00.79]でも、鶏を飼っている。 [01:04.13]いい所はそこだけかな。 [01:07.22]君、鶏を探しているの?」 [01:10.86]「違うよ。探しているのは友達だ。 [01:15.30]飼い慣らすって、どういう意味?」 [01:19.01]「みんながすっかり忘れていることだよ。 [01:22.53]絆を作るって意味だ。」 [01:25.50]「絆を作る?」 [01:28.00]「そうさ。 [01:29.57]僕にとって君はまだ [01:31.60]他の十万人の男の子と同じ、 [01:34.37]ただの男の子だ。 [01:36.90]僕には君は必要ないし、 [01:39.35]君にも僕は必要ない。 [01:42.60]君にとって僕はまだ他の十万匹の狐と同じ、 [01:47.20]ただの狐だからね。 [01:50.38]だけど、君が僕を飼い慣らしたら、 [01:53.74]僕たちは互いに必要不可欠な存在になる。 [01:59.40]僕にとって君は [02:01.18]世界でたった一人だけの男の子。 [02:05.02]君にとって僕は [02:06.85]世界でたった一匹だけの狐。」 [02:11.17]「だんだん分かってきたよ。 [02:13.90]ある花のことだけど、 [02:15.98]その花は [02:17.55]僕を飼い慣らしていたんだと思うな。」 [02:21.38]「そういうこともあるかもね。 [02:24.11]地球では何でもあるからね。」 [02:26.65]「ああ、地球の話じゃないんだよ。」 [02:29.88]「え?他の星?」 [02:32.95]「そう。」 [02:34.73]「その星には、猟師(りょうし)はいる?」 [02:37.36]「いないよ。」 [02:38.80]「そいつはいいや。鶏はいる?」 [02:42.56]「いないね。」 [02:44.54]「思い通りに行かないもんだな。 [02:47.55]まあ、いいや。話を続けよう。 [02:51.34]僕の暮らしは単調だよ。 [02:54.22]僕が鶏を追う。人間が僕を追う。 [02:59.12]鶏はみな同じ、人間もみな同じ。 [03:04.21]おかげで、いささか退屈しているんだ。 [03:08.46]でも、もし君が僕を飼い慣らしてくれたら、 [03:12.71]僕の暮らしは [03:14.00]お日様が当たったみたいになるよ。 [03:17.58]僕は足音が聞き分けられる。 [03:21.32]誰かの足音が聞こえたら、 [03:23.62]僕は慌てて地面に潜(もぐ)る。 [03:27.68]でも君の足音は [03:29.76]音楽みたいに僕を穴から誘い出す。 [03:34.01]それに、ほら、 [03:36.02]あそこに小麦畑が見えるでしょう。 [03:39.67]僕はパンを食べないから、 [03:41.64]小麦には全く用がないんだ。 [03:45.06]だから、小麦畑を見ても何も感じない。 [03:49.57]悲しい話だけどね。 [03:52.72]でも、君は金色の髪をしているよね。 [03:57.33]だから、君が僕を飼い慣らしてくれたら、 [04:00.62]素晴らしいことになる。 [04:03.68]金色の小麦を見るたびに、 [04:06.01]僕は君のことを思い出すようになるよ。 [04:11.13]小麦畑を渡っていく風の音さえ [04:14.15]好きになるよ。」 [04:17.84]狐はふと黙って、 [04:20.42]長い間王子さまを見つめていた。 [04:24.54]「お願い、僕を飼い慣らして。」 [04:28.63]「そうしたいんだけど、 [04:30.53]あんまり時間がないんだ。 [04:33.05]友達を見つけて、 [04:35.11]いろいろをたくさん学ばなきゃいけないし。」 [04:39.27]「飼い慣らさなきゃ学べないよ。 [04:42.03]人間には、学ぶ時間なんかない。 [04:46.03]お店で出来合いの物を買ってくるだけさ。 [04:49.99]でも、友達を買えるお店はないから、 [04:53.66]人間にはもう友達がいないんだ。 [04:57.86]友達が欲しかったら、 [04:59.55]僕を飼い慣らして。」 [05:02.80]「僕はどうすればいいの?」 [05:05.64]「とっても辛抱強(しんぼうづよ)くならなきゃね。 [05:09.49]まず、僕からちょっと離れて、 [05:12.90]草の中に座るんだ。 [05:16.64]僕は横目に君を見て、 [05:19.48]君は何も言わない。 [05:22.01]言葉は誤解の元だから。 [05:25.06]でも、毎日少しずつ [05:28.47]だんだん近くに座れるようになるんだ。」 [05:35.11]次の日、王子さまは戻ってきた。 [05:40.35]「出来たら、 [05:41.45]同じ時間に戻ってきた方がいいよ。 [05:44.92]例えば、四時に君が来るとすると、 [05:48.23]僕は三時から嬉しくなってくる。 [05:51.96]時間が経つにつれて、 [05:53.74]ますます嬉しくなってくる。 [05:57.24]四時になると、 [05:59.11]そわそわして気も漫(そぞ)ろさ。 [06:01.88]幸福ってどんな物かを知るんだ。 [06:05.56]でも、君がいつと決めず適当に来ると、 [06:09.78]何時に心の準備を始めればいいのか [06:11.83]分からなくなる。 [06:15.01]習慣にすることが大事なんだよ。」 [06:17.68]「習慣って、何なの?」 [06:20.99]「ずいぶんと忘れがちな物のことさ。 [06:24.83]ある一日を他の日と区別し、 [06:27.59]ある時間を他の時間と区別するんだ。 [06:32.15]例えば、僕を追い回す猟師たちにも [06:35.24]習慣がある。 [06:38.14]毎週木曜日は狩をせず、 [06:40.99]村の娘たちと踊るのさ。 [06:44.49]だから、木曜日は素晴らしい日だ。 [06:48.73]僕は葡萄畑の辺りまで散歩に行ける。 [06:53.26]でも、 [06:54.21]もし猟師たちがいつでも好きな日に踊ったら、 [06:57.72]毎日がみんな同じになって、 [07:00.16]僕は全く休暇が取れなくなる。」 [07:04.95]こうして、王子さまは狐を飼い慣らした。 [07:11.65]出発の時が近づくと、狐は言った。 [07:16.93]「ああ、泣けてきちゃうよ。」 [07:20.19]「君のせいだよ。 [07:21.95]僕は君を困らせたくなかったのに。 [07:24.89]君が飼い慣らしてなんて言ったから。」 [07:27.87]「そうだよ。その通りだよ。」 [07:31.04]「でも、君は泣くんだ。」 [07:34.40]「そうだよ。その通りだよ。」 [07:37.48]「だったら、君は損しちゃったんじゃないか?」 [07:41.53]「僕は得したんだよ。 [07:43.92]小麦色の分だけ。 [07:47.04]さあ、もう一度庭園に足を運んで、 [07:51.66]薔薇たちを見てきてごらん。 [07:55.20]君の薔薇は [07:57.17]世界にたった一つしかない薔薇の花だって [08:00.45]分かるから。 [08:02.63]そうしたら、戻ってきて、 [08:05.23]僕にさよならを言って。 [08:08.79]お別れに、秘密を一つあげるから。」 [08:18.24]王子さまはもう一度薔薇たちを見に行った。 [08:22.78]そして言った。 [08:25.92]「君たちはどれも僕の薔薇とは [08:28.64]全然似ていないよ。 [08:31.55]君たちはまだ僕にとっては [08:34.73]取るに足りない存在だ。 [08:37.66]飼い慣らされていないし、 [08:39.68]飼い慣らしてもいないもの。 [08:42.56]会ったばかりの頃の僕の狐みたいだ。 [08:47.73]あの狐は他の十万匹の狐と同じ [08:51.77]ただの狐だった。 [08:54.54]でも僕は狐と友達になった。 [08:58.49]今では、世界に一匹だけの狐だよ。 [09:03.93]君たちは綺麗さ。 [09:06.13]でも、空っぽなんだ。 [09:10.00]誰も君たちのためには死ねない。 [09:15.92]もちろん、普通の通りすがりの人は [09:19.52]僕の薔薇を君たちと同じだと思うだろう。 [09:23.82]でも、僕の花はたった一つで、 [09:28.58]君たち全部を合わせたよりも大切なんだ。 [09:32.98]だって、僕が水をかけてあげたのは [09:36.67]あの花だから。 [09:39.23]ガラスの覆いを被せてあげたのも、 [09:41.97]衝立で守ってあげたのも、 [09:44.60]蝶々になる二三匹を残して [09:47.01]毛虫を退治(たいじ)してあげたのも、 [09:49.79]文句を言ったり自慢したり [09:52.93]時々黙り込んだりするのにさえ [09:55.46]耳を傾けてあげたのも、 [09:57.82]あの花だけだから。 [10:00.55]なぜってあの花は [10:02.76]僕の薔薇の花だから。」 [10:13.44]そして王子さまは狐の所に戻った。 [10:19.47]「さよならだね。」 [10:21.48]「ああ、さよならだ。 [10:24.33]じゃあ、秘密を教えるよ。 [10:28.11]簡単なことだ。 [10:31.35]心で見なければ、物事はよく見えない。 [10:37.33]一番大切なことは目に見えない。」 [10:42.47]「一番大切なことは目に見えない。」 [10:48.50]「君の薔薇を何よりも大切にしたのは、 [10:53.48]君が薔薇のために費やした時間なんだ。」 [10:59.17]「僕が薔薇のために費やした時間。」 [11:05.01]「人間はこの真理を忘れてしまった。 [11:10.05]でも、君は忘れてはいけないよ。 [11:14.89]君は飼い慣らしたものに [11:17.71]永遠に責任があるんだ。 [11:21.20]だから君は君の薔薇に責任がある。」 [11:30.28]「僕は、僕の薔薇に責任がある。」