ゆっくりとコーヒーが落ちる 氷を溶かしながら ゆっくりと ゆっくりと 「どうしたの?」と独り言みたいに呟く その問いかけに「別に」と返事をする なんとなく目を反らす コンビニの外は暑そうだ 熱を持った私の感情と 常に眠たそうな彼女の瞳 ガラス扉一枚の温度差に 溜息が漏れる 高校生になってから書き始めた短編小説は 完成を間近にしてもタイトルを決められずにいた 欠落したピースは白々しく 私の中のゴールを あやふやでふわふわした形のないものにしていた 誤魔化し 茶化し 日常はループする 私の真ん中にある小さな感情は名前すら付けられず 産み落とされず 眠り続けているのだろう あるいは しっかりとした「意味」がまだそこにないのかもしれない 学校であったことをなんとなく話し 何度となく通った道を行く なんでもないことをキャッチボールするうちに 何気ないテーマとして 彼女は物語の進展を問う 遠くを望むような深い瞳 吸い込まれると言うより 沈む 溺れるように見とれて私はすこしだけこわばった口を開ける 「わるくはないよ」とちょっと強がった 彼女は音楽 私は小説 それぞれの創作活動に張り合うべきものはない そのはずなのに私は怠慢を咎められているような気持になる。 パズルのピースが一つ見つからない そんな不安感 物足りなさ 「そっか」彼女は気怠く口笛を吹く アスファルトに反射する日差しと足音 後何回聴けば 私は見つけられるのだろう 自分の中に眠るこの感情に気付くのは少し後 でもその日は近いと確信めいたものを持って 今日も私達は二人で居る