[00:33.31]どこかくすんだ九月の日 [00:35.73]枯れだす大気は季節を掻き毟った [00:39.14]母胎の森はいつもより騒ぎ立てていた [00:52.48]教室の水槽が消え [00:54.95]幾千の魚が海岸に打ち上がった [00:58.18]不吉にも僕は自転車でカラスを轢いた [01:03.24]山小屋の羊たちの鳴き声は何処へ行ったろうか [01:08.06]ずっと長い未来から逃げ出すみたいに [01:12.83]「ウージの眼」と呼ばれる巨大な送電塔は [01:16.79]赤く赤く染め上がって見下ろしていた [01:26.07]閑静な廃景に鉄塔、田園に浸かって [01:30.63]簡単なカメラで僕を写した [01:33.79]唐突に視界に入った黒い制服の彼女は口を開いた [01:40.44]「あなたは私の産まれ変わりなの」 [01:43.71]そう言ってすぐに背を向けて去った [01:46.98]焼き付いて離れない表情から [01:48.85]もう逃げられない [02:00.05]夕暮れがアスファルトを焼く [02:02.42]単調に焚きだす祭囃子を抜け [02:05.73]綺麗な字が書かれた紙切れをまた見た [02:10.46]線路に導かれて [02:14.39]聞かない駅、二番ホーム [02:19.32]そこには予告通り彼女はいた [02:25.04]手には枯れた花束を持っていた [02:28.33]静寂な夜を歩いた 会話もなかった [02:32.46]塞がれた石のトンネルがあった [02:35.76]板張りの隙間から [02:37.38]奥の方に鳥居が僅かに見えた [02:42.40]「あなたの産まれる前の日のこと [02:45.75]16年前の今日を教えてあげる」 [02:48.97]花を供えた目は泣いていた [02:51.56]これはまだ始まりだった [03:04.48]守られない命も [03:09.12]隠したことも [03:14.39]ほんの些細な言葉も [03:19.06]誰かが背負っていた